同市は2019年、2050年までに循環型の「サーキュラー・シティ」を達成するという目標を掲げ、その指針として英国の経済学者ケイト・レイワースが考案した「ドーナツ」という枠組を採用。今回発表されたのは、地球全体に関するドーナツの枠組みを、都市の規模に落とし込んだ政策立案ツールだ。アムステルダムの先進事例に学ぶ、ドーナツを活用したこれからの持続的都市とは。
GDPから「ドーナツ」へ
ドーナツとは、永続的なGDP成長を前提とした20世紀型の発展の結果生じた、環境破壊と格差を是正するためのオルタナティブモデルだ。考案者であるレイワースは、需要曲線と供給曲線の均衡というマクロ経済の基礎理論とグラフを批判し、代わりに、限界ある地球環境の保全と、人間の基本的なウェルビーイングの実現との均衡達成を目指すためのフレームワークをドーナツ型に図式化した。
モデル自体は2012年にOxfamのレポートとして初めて発表され、2018年刊行のレイワースの書籍(『ドーナツ経済学が世界を救う(原題:Doughnut Economics : Seven Ways to Think Like a 21st-Century Economist』)では、経済に対するマインドセットを根本的に改めるための7つの指針が示されている。
ドーナツを形成するのは、生態系の限界を示した外輪のエコロジカル・シーリング(Ecological Ceiling)と、全人類のウェルビーイングを保障する内輪の社会基盤(Social Foundation)。その2つの輪に囲まれたドーナツ生地の部分(図の緑の部分)が、均衡がとれたスウィート・スポットであり、目指すべき世界だ。
社会と地球の限界を示した「ドーナツ」 出典:ケイト・レイワースHP(https://www.kateraworth.com/doughnut/)
エコロジカル・シーリングは、「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」という9つの指標で構成される。これは2009年にストックホルム・レジリエンス・センター所長ロックストロームらにより開発・発表された概念で、気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染の項目が含まれる。
一方、整備されるべき社会基盤は、2015年に採用されたSDGsに基づき、食料、健康、教育、労働、平和と公正、ジェンダー平等といった12の指標で構成される。
人間の活動がもたらす環境負荷が外枠(ドーナツの外)をはみ出ることなく、かつ地球上のすべての人々が内側(ドーナツの穴)に取り残されることなく生きていける状態。その完璧な均衡が目指すべき理想の世界だが、現状は理想から乖離している。
現状を示した上の図のドーナツで、、はみ出た部分は赤で表現されている。気候変動や生物多様性の損失など、少なくとも4つの要素において地球の限界値を逸脱。社会基盤に関しては、全ての要素において不十分で、未だ世界の多くの人々の最低限のニーズが満たされていない状況だ。
GDPに代わるモデルを提案するレイワースだが、成長そのものを否定しているわけではない。例えば、再生可能エネルギーに関連した産業の成長は、ドーナツの実現とは矛盾しない。地球の限界の中で、使われた資源が再配分・再生産されるようなデザインが必要だ。昨今注目されているサーキュラー・エコノミーの考えは、ドーナツを実現する一つの手段となる。