アムステルダム市は2014年からサーキュラー・シティの構築に向けた戦略立案とプロジェクトを実施してきた。市の最新戦略「アムステルダム・サーキュラー 2020-2025戦略」では、2050年までに100%循環型を目指すというゴールが盛り込まれた。
焦点となるのは、食と有機廃棄物の流れ、消費財、建造環境からなる3つのバリューチェーンで、さらに細分化した個別課題をドーナツに照らし合わせた上で、アクションプランを明確化している。
今回、地球規模のドーナツモデルを都市規模にスケールダウンした形で発表されたのが、「シティ・ポートレート」というツールと、それにデータや市民の声を反映して作成された「アムステルダム・シティ・ドーナツ」第一弾だ。
シティ・ポートレートは、4つの視点で構成されている。縦にローカルとグローバルの視点、横に社会(ドーナツの内枠の要素)と環境(ドーナツの外枠の要素)の視点をそれぞれ置き、これらの視点が交差する4象限[ローカル×社会、ローカル×環境、グローバル×環境、グローバル×社会]から、アムステルダムの繁栄の意義と問うことで、共創イノベーションやシステム変革を促進し、市のビジョン達成を目指す。
出典:amsterdam-city-doughnut.pdf
ここでいう“グローバル”とは、都市の国際化という意味ではなく、グローバルで見た都市の立ち位置や役割、関係性を考える上での視点だ。ある一つの都市という規模での社会構想において、世界の人々のウェルビーイングへの配慮と、地球全体の環境配慮の視点が盛り込まれていることは、注目に値する。
市の戦略と現在地を見える化する
「アムステルダム・シティ・ドーナツ」は、公共データや市民の声を中心に市の現状を反映させた一つの公共ポートレート。シティ・ポートレートのツール自体は、様々なプロジェクトや企業が、それぞれのインプットを使うことで、「セルフィ」的な感覚で活用できる。すでに市の戦略の中心的な枠組みとして採用されているドーナツの考えをより実用化し、関係各署や市民社会のエンゲージメントを促す狙いがある。
例えば、今回発表された公共ポートレート第一弾では、スマートフォンなどに使われるコバルトが採掘されるコンゴ民主共和国の労働環境の課題や、東アフリカに出荷される欧州からの古着がいかに地元の工芸や繊維産業にダメージを及ぼしているかという点に言及しており、都市構想の概念を覆される。
言うまでもなくアムステルダムの経済は、グローバルなサプライチェーンに支えられており、アムステルダム港は、主に西アフリカから出荷されるカカオ豆の単一かつ最大の輸入業者でもある。食品、繊維、電化製品の生産国における労働搾取の課題は、無視し続けるわけにはいかない。
すでにアムステルダムには、チョコレートやコーヒーのフェアトレードブランドの先進企業や関連団体が存在するが、比較的高額になるフェアトレード商品をすべての市民が選べるわけではない。政策立案者がシティ・ポートレートのフレームワークを活用することで、相入れない総合的な視点を獲得し、より深い議論が可能となる。結果、フェアなことや環境配慮が特別なモノではなく、主流へと変化していく流れも期待できる。