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2018.05.27

廃墟ビルで魚と野菜を同時に育てる、オランダで見た農業のカタチ

フード・マイレージという言葉を聞いたことはありますか? フード・マイレージとは「食料の(food) 輸送距離(mileage)」という意味で、食料の生産地から食卓までどれだけ距離が離れているかというのを測る指標です。

当然、輸送距離が長ければエネルギーを消費し、環境への負荷が大きくなります。ちなみに日本の総量は9002億で、アメリカの2958億やフランスの1044億と比べて、群を抜いて大きいのだとか……。

日本でも「地産地消を意識しよう」「食料自給率を上げよう」などと言われて久しいですが、マクロの視点で見るとまだまだ輸入が多く、とんでもないエネルギーを消費している事実は当面変わりそうもありません。なんとか地産地消を進め、食料自給率を上げ、地球にやさしい国に転換していきたいところです。
 
そんな中、農業用地のない大都会で野菜や魚を育て、地域の人たちに供給しようという“アーバンアグリカルチャー”の試みが、世界で注目を集めています。「コミュニティ・ファーム」や日本でも増えている「貸し農園」などが一般的ですが、オランダでは廃墟ビルで野菜と魚をオーガニックで育てる「アクアポニックス」というユニークなプロジェクトが行われています。

今回はそのプロジェクトを推進しているヨーロッパ最大級の都市型農業施設「Urban Farmers」を取材してきました。

新しい農業に触れる“テーマパーク”のような施設
 

魚を飼い、野菜を育てているとは信じがたい街中にあるビル

アムステルダムから車で1時間ほど行った郊外の都市、ハーグにある「Urban Farmers」(以下UF)。もともと使われていなかった廃墟ビルを市から供給してもらい、屋上のグリーンハウスで野菜を、ビルの一室では魚を育てています。

ビル内のショップではとれたての野菜や魚が販売されており、カフェではそれらを味わえるメニューが展開されています。さらにファームを見学する体験ツアー、音楽祭、子供のワークショップ、ヨガなどのイベントも行っており、まるでテーマパークのよう。地域の住民がワイワイと集まりながら、気軽にアーバンアグリカルチャーを体感することができます。



ただ食料問題に取り組んだり、最新のテクノロジーを駆使して野菜や魚を育てるだけではなく、地域の人々とコミュニティを醸成しながら社会課題を解決していくのが、このUFの魅力です。

部屋の中に突如現れる巨大な水槽

ビル内の大きな部屋の中には巨大な水槽があり、中にはたくさんの魚が泳いでいます。ティラピアという種類で(日本ではイズミダイ)、臭みもなく非常に美味しい白身魚で、オランダではよく食されているポピュラーな魚の一種です。成長を促すホルモン剤などは与えず、植物由来の餌を使用し、安全で健康に発育するように配慮しています。


ビルの中の一室で育てられている魚たち。水質が綺麗で清潔感のある水槽内

水槽の奥には黒いプラスチック材を詰め込んだ水槽があり、そこで魚の排出物に含まれるアンモニアを微生物が分解し、植物の養分となる水を作り出します。植物の養分となる硝酸塩を含んだこの水は屋上のグリーンハウスに送り込まれ、そこで野菜の成長を促すために使用されるのです。
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文=国府田淳

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