経済・社会

2020.05.11 07:15

アムステルダムの次なる都市構想 基軸の「ドーナツ」とは


ドーナツ考案者のレイワースは、3月31日、アメリカの生態経済学者ハーマン・デイリーと共に、元ニューヨーク・タイムズ記者アンドリュー・レブキンによるビデオ対談に登場。デイリーは、ドーナツモデルの前身ともいえる定常経済(有限な地球環境に内包された経済システム)の考え方を70年代から提唱しており、レイワースの研究にも影響を与えた学者だ。

彼らは、コロナ危機は、人間が自然環境を無視して経済を発展させてきたことが仇となり、人間が脅威にさらされている状況の一例だと考えている。まさにレイワースやデイリーがそれぞれの枠組みの提示によって、阻止しようとしてきたことだ。レイワースはコロナ危機を異常事態と捉えて、危機が去った後に元の経済モデルに回帰するのではなく、ドーナツのような新たな枠組みに則ったシステム・デザインが必要だと主張する。

「ウィズ・コロナ」の世界において、レジリエンス(回復力・弾性)は一つのキーワードだが、レイワースは個々人のレジリエンスに任せる施策には限界があるとも話す。経済成長を前提としたモデルの破綻が引き起こす金融危機、または想定外の天災、疫病に対して、打撃を最も受けるのが経済的弱者である現実に対し、“社会の仕組み”としてレジリエンスをデザインすべきだという。

その一例として、レイワースは、グローバル貿易に依存しすぎないコミュニティ・レベルでの経済圏の構築を一例にあげるが、他にも、国の保障の仕組みでは、ユニバーサル・ヘルスケアやユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)などが考えられるだろう。


ケイト・レイワース(2017年撮影、Getty Images)

「世界全体が一様に、脆弱性を示している」とレイワースは言う。つまり、いわゆる先進国と途上国という構造の中で、途上国の問題として扱われてきた人間の安全保障の課題だが、実際は欧米すらも「先進国」ではなかったということだ。コロナ危機で、世界中すべての人々が食や健康のリスクに直面し、これまでのアプローチの欠点が露呈した今こそが、新たな考えを取り入れるタイミングだというのが彼女の考えだ。

ドーナツは視点であって、我々に回答をもたらすものではない。しかし、社会が大きく変わる今この視点を獲得することによって、資本主義経済の矛盾と向き合うことに疑問を持つことなく、社会にとっても地球にとっても、より正しい判断を下せるようになるのではないだろうか。新型コロナウイルスにより全世界の人々のウェルビーイングが脅かされている今だからこそ、このドーナツが地球を救えるかもしれない。

連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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文=MAKI NAKATA

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