「日本初のCDO」の経歴からマーケターの歩みを学ぶ|#キャリアトレース Vol.1


時代が変化すれば、人材に求められるスキルも変わる


では、具体的な分析をしていきましょう。

長瀬氏は現在、日本のマーケターの中で独自のポジションを築いています。まずは今日に至るまで、どういう環境の中でキャリアを歩んできたのかを見ていくことが重要です。

個人的に一番注目すべきは、Instagramが日本進出した際の事業責任者を務め、それがデジタル領域での大きなキャリアとなって日本ロレアルのCDOとして大きな成果を出した点です。

今から振り返ると、00年代から10年代にかけて世界でデジタルシフトが急速に進んでいきましたが、長瀬氏の場合は早くからその流れを感じ取っていた行動していたことが成功要因の一つだと思います。

このような気付きを、(1)「PEST」(Politics、Economy、Society、Technology)というフレームワークや(2)「人材市場におけるニーズの変化」などで細分化して見ていきます。



普段の仕事では政治や経済をそこまで意識することはないかもしれませんが、転職活動などでよく聞く「伸びる業界」はここに由来します。こうしたフレームワークを使いながら部分的にでも意識する習慣ができると、より広い視野を持ってキャリアを考えるきっかけにもなります。

(2)では、トレースする対象に合わせて、その人が属する業界の構造を分析します。キャリアの分析なので、「時代の変化によって、求められる人物像やスキルがどのように変化したか」という視点で考えていくと良いでしょう。



デジタルマーケティングの世界では「グローバル企業における成果」「テクノロジーの知見」「経営者人材」などがキーワードになっているので、私の分析例ではそれを踏まえて記入しています。

ここまでのプロセスで、マクロ環境を踏まえて、対象の業界・職種を取り巻く環境がこのような状況にあったかを整理できました。

「評価者=顧客」と捉え、どのような価値を提供するか


次に、長瀬氏が具体的に「誰に」「どういう価値を提供して」キャリアを築いてきたのかを考えていきましょう。

ここではマーケティングにおけるSTP(Segmentation、Targeting、Positioning)と4P(Product、Price、Place、Promotion)という考え方を応用しています。

とっつきにくい用語が並ぶかもしれませんが、ポイントは「顧客を誰に設定するか」です。顧客は、評価者と言い換えてもよいでしょう。キャリアは個人の集団である社会で築くものです。他者の評価を得ることは避けては通れないので、この分析も非常に大切です。

実は長瀬氏とは面識があり、直接聞いた話やインタビュー記事などを見ると、30才で経営者になることを目標にしていたようです。そうしたことから、「経営者に自分の仕事がどう見られているか」「経営者に必要なスキルは何か」を常に考えてきたのではないかと仮説を立て、長瀬氏にとっての(3)「キャリアににおける重要人物」の1人を「経営者」としています。

加えて、日本ロレアルやユニリーバでの活躍から、マーケターとしてエンドユーザーである消費者のことを考え続けている姿も垣間見えるので、(3)には「消費者」も記入しています。



「自分のキャリアにおける顧客」にはいろいろな考え方があると思いますが、長瀬氏の場合は「経営者に与える価値」と「消費者に与える価値」という2つの視点を意識して行き来していたことが大きかったのではないかと分析しています。

このように作業を進めていくと、テレビのドキュメンタリーやインタビュー記事などを見て漠然と憧れていた人物への思いが、「あの人は特別だから真似できない」から「真似できる点はどこか」へと徐々に変化していくのではないでしょうか。
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解説=黒澤友貴 構成=小野祐紀

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