「日本の予算は総額117兆円。これはあくまで『事業規模』であって、実際国民に配られる、通称『真水』と言われるGDP(国民総生産)の増加に直接効果のあるお金は25兆円ほどです。日本政府は、緊急経済対策としてGDPの20%を出したと得意気に言っていますが、同じ指標で計るならば、アメリカはGDP2000兆円に対して700兆円以上準備していますから、割合で言えば35%以上。しかも、状況次第では今後も無制限に出すと言っていますから、規模が違いますね。
政府や財務省の予算に合わせ、その中からできることを考える日本政府と、現場を主にし『現場が改善されるためにはいくら必要なのか?』を考え、実行に移すトランプ政権。これが日本とアメリカの一番大きな違いです」(世野氏)
アメリカでの日本政府のコロナ対策に対する評価は、「too small,too late」(小さすぎ、遅すぎ)と手厳しい。
アメリカでも急激に失業者が増えていると言われているが、アメリカ政府が少しでもコロナ前の状態に戻そうと本気を出している様子が政策から見てとれる、と世野氏は言う。
経済が死ぬ前に「仮死状態」にしてから「解凍」する
「これまでは景気もよかったことから、失業保険の申請者数はかなり低減していましたが、今回コロナの感染拡大を受けて、3月中旬からの6週間で申請者数3000万人と、グラフで言えば直角になるような形で急増しています。
今回のレイオフは、一時的に企業の負担を減らすためのアフターコロナの策とも言えるものです。アメリカ政府は企業をいったん「仮死状態」にし、経済を回復させたあとに解凍するようなイメージの政策を行なおうとしています。そのために、政府は今まで以上にお金を投入する予定なのです。仮死状態とは時が来るまで冷凍保存しておくわけですから、当然のことながら死んでからでは遅い。死ぬ前に凍結することが必至です。だからアメリカ政府の行動はすばやかった。あきらめずに本気で復活させようとしている心意気が見てとれます。
そもそもアメリカでは働くことに対する考え方が日本と大きく異なり、当然の権利として失業保険を申請するような文化があります。ですから、今回のレイオフも『今、ちょっと企業が困っているからいったん失業保険をもらいながら休んで待っていてもらえますか。また復活したら雇いますから』というような意味合いを含んでいると言えるでしょう」(世野氏)
日本は実体経済「危篤」の今こそ、変わるチャンス
そうした観点から見ると、日本はかなり心配な状況だという。「すでに実体経済はやられはじめ、店や企業が続々と死んでいっているからです。一度死んでしまっては、そのあとにいくら経済が回復したところで雇用をよみがえらせることは難しい。戻そうと思っても戻らない。この状況が続けば、日本経済は今後どんどん厳しくなっていくでしょう。それがとにかく心配でなりません」と世野氏は危惧する。
「そういう意味でも、日本は今、働き方や政府の在り方を考える、大きな変換期に差し掛かっているのではないでしょうか。実際、私の周りでは『今度は選挙行かなきゃ』と言っている若い人が何人も出てきています。私の周囲に意識の変わった若者が数人出てきたということは、日本全国で見ればけっこうな人数に上っているのではないでしょうか」と世野氏。
彼らは新型コロナウイルス感染拡大という大きな出来事の中で、政府に対して、「なんか変だな」「なんとなくこのままではいけないような気がする……」と思いはじめたのだろう。「実は、この『なんとなく』の感覚が重要です。こういうときに時代は大きく動くのです。そして、時世の「空気」の動きを察知することが大きな流れをつかむコツでもあります」(世野氏)
少し前に、香港では民主派による大々的なデモが行われたが、新型コロナウイルス拡大の影響で弱まっていった。これは、民主派が行動を起こしたタイミングが、時代が動く前だったからではないか、世界の空気を味方につけていたら、たとえば民主派の要求が受け入れられるなど、結果が多少なりとも変わっていたのではないだろうか、と世野氏は言う。
家で過ごす時間も増えている今。自分の働き方、これからのことを冷静に考えてみる好機なのかもしれない。
世野いっせい◎投資家。米国シリコンビーチ在住。米国不動産を中心に資産を築き、年間不労所得は3億円を超える。著書に、『お金持ちの「投資家脳」、貧乏人の「労働脳」 ──本物のお金持ちしか知らない55の法則』(河出書房新社)、『金持ち脳でトクする人 貧乏脳でソンする人 一生お金に困らない55の法則』(PHP文庫)。