嶋田:箱根、奥多摩。ドライブのコースとしては悪くありません。でも、なんだかぼんやりしている。そこには目的地がないような気がしました。あったとしても、既存の価値感の引き出しから無理矢理引っ張りだしているような気がしたんです。
来訪者が「具体的な目的を持った店」を作ってみたいと思いました。そして、「全部がコンテンツ」の場所。
一回見たら忘れられないクロワッサン、マッキントッシュの真空管アンプ、JBLのスピーカー、アナログレコード。ZEBRAを作るときの、全て意図されたコンテンツです。
写真=嶋田耕介
アナログレコードはデータが所有物になるという意味でも大事です。レコードのジャケットをおいた瞬間、ジャケットの絵や写真は店の一部となり、お客様と共有されます。
そして一番大事なコンテンツはコーヒーの香りです。フィレンツェにはスクーターのオイルの匂い、ニューヨークにはタクシーのクラックションの音、北欧には凍てつくような寒さがあります。当時、僕は蓼科にも仕事場を持っていて、週の半分ぐらい、そこで仕事をしていました。東京との往復生活です。蓼科にくると気温が10度以上違うわけなんです。
来た瞬間に「来たんだな」と分かる感覚、あの感覚をどう作るかを考えていました。
ZEBRAのドアを開けた瞬間の香りと空間、「来たんだな」と思う感覚、その瞬間に押されているのが、五感のスイッチです。
インターネットの時代になり、視覚・聴覚の情報は随分と流通するようになりました。ZEBRAにもSNSで見た情報を元に来店されるお客様も多くいらっしゃいます。でも、ZEBRAに初めて来られたお客様は決して「既視感」を得ることはないと思っています。なぜなら、ZEBRAは視覚・聴覚以外の五感のスイッチを押しているのですから。ずるいと言われるかもしれませんが、意図的に押しています。