ビジネス

2020.06.20

携帯電話デザイナーから相模原のカフェオーナーに。「KPIのコペルニクス的展開」はどう生じたか

写真=嶋田耕介


嶋田:1時間の移動というのは生活圏内だと思うんです。それを超えると日帰り旅行の感覚になります。

私は以前、マーケティングの会社に所属していました。携帯電話などのデザインをする外部のディレクターとしてやっていたのですが、そこでの活動は、年に数回の発表会に向けて、セグメント毎にイメージボードを作り、コンセプトを練って提案する。それの繰り返しでした。

そんなとき、未来的な携帯電話のデザインをするというプロジェクトに出会いました。そのプロジェクトは「事前調査なし、色、形も任せる」という斬新なものでした。そして、アウトプットとして、出てきたデザインは、「どう見ても、新しい」ものばかりでした。売れるかどうかは別として。

曽根:スティーブ・ジョブズも、その昔、ビジネス・ウイーク誌の記事で「フォーカスグループからデザインを導きだすことは難しい」と言ってましたね。

マーケティングではなく、クリエイティブが未来を作る


嶋田:マーケティングデータというのは所詮、過去のデータなんです。そして、データに基づいてコンセプトを何回も作っていると、売る前から何台売れるか分かるようになってくるんです。売れる色も分かるので、作る色も当然偏る。面白くないと思いました。

マーケティングではなく、クリエイティブが未来を作る。その世界観が表現できるアクションは何かを考えました。いまどきの言葉で格好良くいうと「ビックデータへのアンチテーゼ」でもあります。その答えの一つが「カフェ」だったんです。

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嶋田:カフェを作るにあたっては、クリエイティブの効果をピュアに計測するために、条件付けがない場所、言い換えると「プラスの要素がない場所」を探しました。もし、カフェがうまくいっても、他にプラスの要素があれば、正当に評価されないですからね。中途半端はよくありません。

科学実験のようでもありますが、その条件下で成功すればクリエイティブの勝利となるわけです。カフェは個人の仮説と検証の実験場でもありました。

曽根
:ZEBRAコーヒーのストーリーには「五感のスイッチ」という言葉が出てきますが、具体的にはどういう意味ですか?

嶋田:当時、年齢的にも周囲にクルマを持ちはじめる人が増えていました。僕もアウディのA6 Avant quattroに乗ってました。そして、僕を含め、みんな、ドライブの目的地を探していました。
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文=曽根康司 写真=嶋田耕介 編集=石井節子

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