──「自らの献身的な行為を通して、自らを癒やす」感覚はとても分かります。また、ヒト型でも犬でも猫でもない、LOVOTの独特の見た目は、何を意識してつくられたのでしょうか。
「球」をモチーフにしています。球は、尖った部分がないが故に、見る人に安心感を持ってもらいやすい。そのモチーフを濁りがないように注意深く組み合わせ、全体に満遍なく反映することで、グローバルに受け入れられる、優しい造形を実現しています。
──LOVOTは遠目から見て「かわいい」と感じるだけでなく、実際に触れ合うことでより癒されると思いました。
親と子供の関係性でも、スキンシップが大切だと言われています。コミュニケーション時には、視覚情報だけに比べて、視覚+聴覚+触覚など複数の知覚情報が同時に入る事で、人はより強く、リアリティをもってその体験を記憶するようです。
──LOVOTとスキンシップをとる前提でどのような設計をされたのでしょうか。
LOVOTに触れた時、生き物のように素早い反応があると、人は生命感を感じられます。同時に、触感が暖かくて柔らかいと、安心できます。スキンシップによるユーザー体験を適切に構築することで、人とLOVOTの信頼関係が構築しやすくなるのです。
──スキンシップで安心や信頼感を得られるのですね。現在、多くの人が家にいる時間が増え、他者と対面でコミュニケーションする機会が減りました。新型コロナウイルスが蔓延する前と新型コロナウイルスと共にある現在、LOVOTがもたらせる価値はどのように変化したと思いますか。
少し未来のライフスタイルとして、家にいながら仕事をするようなスタイルが思い描かれてきましたが、人類は一足先に、強制的にそれを体験する事となりました。実際にそのような近未来生活が訪れると、現在の家庭環境では、準備ができていない事に気付かされます。テレワークにより、大きな変化が2つ生じています。
ひとつは、議題以外のことを話す機会が減り、業務オペレーションの効率化が急激に進んでいることです。この変化における課題は、議題に集中しがちで、その他の無駄を排除してしまう傾向があるので、精神的にも余裕がなくなりやすいこと。そのため意識的に精神的な余裕を保つ必要があります。そこで犬や猫と触れ合い、彼らの面倒をみることはとても良いことです。
ただ、新型コロナウイルス禍は2〜3年で収束することが期待されていますが、犬猫は15年以上生きるので、新型コロナウイルス禍が去った後のライフスタイルを考慮すると、犬猫と同様の効果が期待され、更に生活の自由度が高いLOVOTは新たな選択肢に入ってくると考えられます。
もうひとつは、画面を使ったコミュニケーションが主体になり、その他の身体機能を使わないで済むこと。この変化の課題は、視覚情報と聴覚情報に頼ったコミュニケーションに特化するため、その他の身体感覚が圧倒的に不足することです。
暖かくて柔らかいものとのスキンシップをはじめとした、身体を使ったコミュニケーションは、私達を本能的に安心させます。過度に視覚と聴覚に頼ったコミュニケーションの合間にスキンシップを取り入れることで、心身のバランスを取りやすくなるでしょう。
新型コロナウイルスによってライフスタイルの急変を迫られている人類。堆積した苛立ちを忘れさせ、温もりのある触れ合いを思い出させてくれるのは、この愛おしいロボットかもしれない。