逆転の発想から生まれた破壊的イノベーション「高速リクエスト配信」
自由視点映像は最近スポーツ中継の世界でも多く導入されてきた。2018年平昌オリンピックではインテルとサムソンが5Gタブレットブースでも使用。世界柔道、2019年ラグビーワールドカップなどの世界的な大会でも活用されてきていている。先日の通信キャリア3社の5G発表会でも3社とも「自由視点」というワードを使用していた。
だが視聴者にこの多角的な視点の動画を見せることが出来ても、自ら切り替える自由は与えることが出来ていなかった。その理由には「データが重すぎて、配信と視点切り替えを同時にはすることが出来なかった」と下城はいう。カメラ台数と画質のトレードオフという配信システム障壁、ネットワークやサーバーサイドの負荷もある。自由視点映像の自由さを視聴者に届けるには課題がまだまだ山積みだったが、それを解決したのがSwipe Videoだった。
この技術はゴルフ練習場や埼玉県横瀬町の「よこらぼ」や埼玉県庁の公民連動推進事業(通称:Sai-Co-Lo/サイコロ)などで実証実験を経て、2018年12月に正式ローンチ。一番多くの人が世界中から見ている媒体がウェブであり、たくさんの人の目に触れてもらい、感動体験を共有できるようにウェブで行うこととなった。
「今すぐウェブでも視点切り替え視聴が出来る」
スワイプに応じて、カメラ一台分だけの映像をクラウドから個別に配信するリクエスト配信を高速にやっているシステムを開発。自由視点映像の配信は5G通信が必要とされていたが、4G環境下でもクラウドから配信することを可能とした。アングルごとの映像を一つにまとめていないことで無制限の動画で対応することが出来る。負荷が多く掛かっていた「見ていない映像」を排除して本当に必要な箇所だけを取り出している。
特許を取得するまではコンテンツが表に出る企業へのアプローチではなく、技術教育を行うクライアントを中心に事業を行っていた。国内最大級のスポーツトレーナー専門学校との提携ではテーピングの巻き方、ストレッチの方法などを全校生徒へ配信する教材作りへと活用。さらに、スポーツの分野では卓球プロリーグの「Tリーグ」の試合撮影を行い、チーム内分析、そして新たなスポーツ映像配信の実証実験ともなっていった。
Swipe Videoが拡大するエンタメの楽しみ方
2019年8月には、国際特許としてを特許取得。Swipe Videoの映像は世界中のスマホユーザーが視聴可能となった。インテル、KDDI、キャノンなど名だたる企業とデータ連携出来れば「今すぐ世界中の視聴体験を変えられるという組み方が出来るようになった」と下城氏は話す。
このタイミングを皮切りにアクセルを踏み出した。特許取得からはさらにスポーツ・エンタメ業界との仕事が増えることで露出にも繋がってきた。2020年3月には電通との業務提携を発表。これまで技術教育の分野が中心だったところをエンタメ・スポーツ・メモリアルへと領域を広げてきている。
提携の前からすでにエンタメの世界ではグループの演出でも自分の好みのメンバーだけを捉え続けることが出来る「推しカメラ」がバズを生み出し、高校バスケ最高峰のSoftbank ウィンターカップ2019ではラストアイドルのパフォーマンス撮影に採用されるなどスポーツとエンタメの掛け合わせなど新たな領域も生み出している。
BtoBを主体とするビジネスモデルであり、テレビ局(放送局)、OTT、通信キャリアなどの動画配信をビジネスとしているサービスにシステムを提供している。他のサービスと協働することでユーザーの視聴体験を変えることを可能としている。