孫が死にそうなときも、義父は嫁を外出させなかった
4、5年前、まだ私が世界でも特に貧困に苦しむ女性たちの家事負担の状況に注目していなかった頃、チャンパという女性の話を聞く機会がありました。
22歳のチャンパはインド中央部のある集落で、夫と義理の両親と3人の子どもとともに2部屋の小屋で暮らしていました。私たちの財団のインド支部で初の支部長を務めたアショク・アレクサンダーはある朝、複数の医療関係者とともにチャンパのもとを訪れました。チャンパのラニという名の2歳の娘が急性栄養失調になり、ただちに治療をしなければ死亡する恐れがあったためです。
アショクたちが到着すると、チャンパはラニを腕に抱えて家から出てきましたが、その顔はパルで覆われていました。パルはヒンドゥー教徒の特に保守層の女性が、男性との接触を制限するために身に着けるものです。チャンパは自分では読めない薬の説明書を手にしていて、アショクに差し出しました。
アショクは説明書を受け取り、ラニの様子を見ました。ラニは極度の栄養失調で足は棒のように痩せ、母親には対処のしようもない状態でした。通常の食事を口にすることもできなかったのです。栄養強化食を慎重に少量ずつ摂取させる必要がありましたが、その村の環境ではできません。頼れるのは地域の栄養治療センターだけです。そこに行けば、2、3週間で健康な状態に戻るはずです。しかしセンターへ行くにはバスに2時間乗らなければならず、ラニとチャンパは2週間は滞在することになります。チャンパの義父は、こう言ったそうです。「チャンパは行かせられない。家族の食事を作らなくちゃならないんだから」
チャンパは女性の医療関係者にさえパルを外さないまま、そう説明しました。子どもの命がかかっていても、義父には逆らえないのです。
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アショクは、義父に会わせてほしいとチャンパに頼みました。そして、地面に寝転がりながら手作りの安酒を飲んでいる義父を見つけ、こう言いました。「治療をしなければお孫さんは死んでしまいます」
しかし義父は態度を変えません。「チャンパを行かせるなんて話にならない。2週間も家を空けるなんて」