このままではラニは死んでしまうとアショクが再び訴えると、今度はこう返しました。「神は子どもを連れ去れば、必ず代わりに別の子どもを授ける。神は偉大で寛大だからな」
料理を始めとしたチャンパの役目を代わろうとする家族は、誰もいませんでした。子どもの命が危険にさらされている時でさえ、家族も誰も、代わりに家事をしようとする意志や能力を持っていないのです。
そこで医療関係者たちはチャンパが家に留まり家事をこなせるよう、自分たちでラニをセンターへ連れていき、治療を受けさせて命を救いました。ラニは幸運でしたが、他の多くの子どもの母親も同様に、家事をこなす義務や社会規範に縛られて子どもを守れない状況にあります。
アショクは後日、私たちにこう語りました。「特別なケースではありません。同じようなシーンは何度も目にしてきました。女性は権利も力も持っていません。ただ料理や掃除をする役目を課され、我が子が腕の中で息絶えるのを見ていることしかできず、他人に顔を見せることもできないんです」
女性の無償労働は男性の2倍以上
来る日も来る日も無償労働に明け暮れる女性は、人生の夢を奪われてしまいます。無償労働は子育てを始めとした家族の世話や、料理、掃除、買い出し、使い走りなど、家庭で行われる報酬の発生しない労働を指します。多くの国の電気や水道設備のない地域では、女性や少女は水を汲みに行ったり薪を集めたりする仕事もこなさなければなりません。
世界の何百万人もの女性がそうした現実の中で生きています。特に、家庭を支える無償労働の多くを女性が担う貧しい国々では、より厳しい現実があります。
世界全体で見ても、女性の担う無償労働は男性の2倍以上だという調査結果が出ています。しかしそれはあくまで平均で、実際には大きなばらつきがあります。インドでは女性が無償労働に1日6時間を費やす一方、男性は1時間未満です。アメリカでは女性は4時間以上、男性はちょうど2.5時間です。ノルウェーでは女性は3.5時間、男性は約3時間です。男女差のない国はありません。寿命で換算すると、女性は男性より7年長く無償労働をしていることになります。学士号や修士号の取得も可能なほどの期間です。
女性が無償労働に費やす時間が減れば、報酬のある仕事をする時間を増やせます。実際、女性の無償労働の時間を5時間から3時間に減らすと、女性の労働人口は約20パーセント増加します。
女性を男性と同等の地位まで押し上げ、力を与え自立を可能にするには、有償労働はとても大きな意味があります。そのため、無償労働における男女格差が深刻な問題となってくるのです。家庭での無償労働は、女性の地位を向上させる活動を妨げてしまいます。より高度な教育を受けたり、社会に出て働き収入を得たり、他の女性たちと会ったり、政治活動をしたりする機会が得られなくなるのです。不平等な無償労働は、女性の地位向上の妨げとなります。
もちろん無償労働の中にも家族の世話など、人生を意義深くするものもあります。それが家庭内で分担されているなら、疑問は感じません。