ビル・ゲイツにできるなら……
私は無償労働の概念について考えることで、自分の家庭に対する見方も変わってきました。正直に言って、私は長い間、子育ても家事も他人に頼りきりでした。他の家庭が、仕事と家庭を両立させるためにどれほど苦労しているのか、全て知っているとはいえません。世間を代表してコメントできる立場にはありませんし、自分の経験は参考にならないとも思います。しかし我が家でも無償労働の男女差があるのは実感しています。子育てには多くの労働がついて回ります。学校や病院、スポーツ教室、演劇のレッスンに連れていき、宿題を見て食事を見守り、友だちの誕生日パーティーや結婚式、卒業式などで家族ぐるみの付き合いをしたり。様々なことに時間をとられますし、いろんな場面で疲れ切って、ビルに「手伝って!」と助けを求めてきました。
2001年秋にジェンが保育園に入園する際、とてもいい保育園を見つけたのですが、車で橋を渡り30~40分かかる場所にありました。送迎で1日2往復しなければならないため、運転に多くの時間をとられてしまうとビルに愚痴を言ったところ、こう返されたのです。「時々、僕が代わるよ」「本当? やってくれるの?」「うん。ジェンと話す時間もできるしさ」
そしてビルも週2回、送迎をするようになりました。家を出てジェンを保育園で降ろし、引き返して家の近くを通り過ぎ、マイクロソフトに出勤するのです。そして3週間が経った頃、私は教室まで子どもを送ってくる父親の数が増えているのに気づき、一人の母親にききました。「ねえ、どうしたの? 送ってくるお父さんがこんなに多いなんて」
すると彼女は答えました。「私たち、ビルが送ってるのを見て、帰ってから夫に言ったのよ。『ビル・ゲイツは子どもを保育園に送ってるんだから、あなただってやればいいじゃない』って」
階層構造を終わらせるために
女性は男性より優れているとか、世界をより良くするための最善の方法は男性より女性に力を持たせることだとは、決して考えていません。誰かが優位に立つこと自体が害悪なので、男性優位の風潮は社会にとって害悪だと思うだけです。誰かが優位に立つとは、能力や努力、才能や実績ではなく、性別や年齢、資産、信仰によって権力や機会が与えられる誤った階層構造に支配された社会であることを意味するからです。特定の人々を優位に立たせる文化がなくなれば、全員の力を活用できます。ですから私の目標は、女性を高みに押し上げ男性を引き下ろすことではありません。どちらが優位に立つか競い合う関係から男女を解放し、双方を高みに押し上げようとしているのです。