例えば、八戸市で育った僕は、初めて東京に降り立ったときの感動を今でも忘れられません。通勤ラッシュ時の渋谷を見たとき、「今日はお祭りかな」と本気で思いましたからね。田舎にいたからこそ、都会の面白さや違いを発見できた。このように、反対側の世界を知ることで生まれる新たな発見は、商品開発に生かせることが多いかもしれません。
──地方のお年寄りの話を聞く、自分の反対側の世界を知る。それぞれ自分とは違う考えを持つユーザーの気持ちや行動を理解する、という点で同じように感じます。
はい。一方で、「ユーザーを見過ぎないこと」も重要です。ユーザーを理解するのも大切なのですが、そうした体験をしたときに自分の感情がどう動いたかを、観察する。自分自身の感情が動く瞬間を認識し、その理由を発見して、そのまま商品開発に投入する。「ついやってしまう」ような体験を作り出すための最大のヒントは、自分自身の心が「つい」を作り出すメカニズムを実感することではないかと思っています。
「ついやってしまう」体験を一度でもしたことがある人なら誰だって、体験デザインのエキスパートになれるはずだと信じています。
「ついやってしまう」体験を生み出すためには、まず自分がどのような時に「ついやってしまう」のかを知ることが大切。それは一見、無関係に思える体験だとしても、「なんで自分はいま感情が動いたのだろう」と自問自答することで、応用できる知見となって蓄積されていくはずだ。そして、「スペックの高さや売り上げを追うことばかりに目を奪われず、自分の感情を大切にしながら商品開発に向き合ってほしい」と玉樹氏が語るように、その感覚を信じることが「ついやってしまう」体験を生み出すことにつながっていくのだろう。