テクノロジー

2020.03.23 10:00

ユーザーの心を動かすCXの仕組み──「ついやってしまう」体験のつくりかたとは?


──まさに著書に書かれている内容ですね。その後、玉樹さんはWiiの企画を手がけられています。お茶の間に置き、家族で楽しめるゲーム機という、新たな価値観を浸透させました。Wiiを通して、どのような体験を届けたいと考えていたのでしょうか?
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いうまでもなくWiiは会社全体で作ったものですが、私個人としては「ゲームが好きではない人も、つい触れちゃう。つい遊んじゃう」体験を生み出したいと思っていました。そう考えたのは、子どもの頃の経験が大きいです。

私はゲームが大好きな子どもだったのですが、祖母はゲームを毛嫌いしていました。電気代はかかるし、勉強の邪魔にもなる。だけど、僕自身は祖母のことが大好き。大好きな祖母と、自分が好きなものを分かち合えないという悲しさがあったんですよね。

もし、そんな悲しいことが世界中で起きているとしたら? と思ったんです。ゲーム好きな人と、そうでない人の間に生まれる溝、これをどうにかできないかと思いました。だからこそ、家族みんなで楽しめるようなゲーム機を作りたい。ゲームを通して家族がコミュニケーションするようなゲーム機にしたいという思いで、Wiiを企画していきました。
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玉樹氏の著書イメージ

──確かに私も小さい頃は良く両親にゲームのしすぎで注意されていたのですが、Wiiは一緒に遊んでくれた記憶があります。企画に携わり、「Wiiのエバンジェリスト」とも呼ばれた一方で、玉樹さんは2010年に任天堂を退職し、地元の青森県八戸市で個人事務所を立ち上げました。なぜ、独立を決意したのでしょうか?

デザイナーたちと進めた仕事、元社長の岩田(聡)さんをはじめ諸先輩方の姿勢、Wiiの企画などを通して、任天堂では多くのことを学ばせていただきました。会社を辞めたのは100%プライベートな都合で、今も任天堂のファンです。人口が減り、経済もどんどん縮小している地元において、任天堂で学んだことを試したかったのもあり、八戸で個人事務所を立ち上げました。

──わかる事務所で企業のコンセプト立案や企画に関するコンサルティングを行いながら、『「ついやってしまう」体験のつくりかた──人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』を出版されました。この本を出版した経緯について教えてください。

おこがましいかもしれませんが、「ゲームへ恩返しをしたかった」という思いが、今回の出版につながっています。私自身、ゲームや漫画、映画など無数のコンテンツに育ててもらいました。それらは生活必需品ではないかもしれないけれど、人生をより豊かにしてくれますし、楽しく生きるうえで大切なことを教えてくれました。それがあって、今の自分があります。

特にゲームで学んだノウハウは、商品開発や体験デザインに応用できることが多いと思っています。スペックの高さ・コスパの良さといった数字で表現可能で客観的な指標が重視されがちな昨今ですが、大事なのはそれだけではありません。もし暮らしに役に立つものしか売れないのなら、ゲームなんてとっくに絶滅しているはずです。

そういった視点でビジネスの現場を眺めたら、私のやりたいことが見えてきました。「多くの人がゲームを楽しんでいる理由を分析することで、世の中にもっと楽しいと思えるプロダクトが生まれるお手伝いができないか」。そんなことを考えています。
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ライター=藤原梨香 編集=庄司智昭 写真=廣田達也

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