テクノロジー

2020.03.23 10:00

ユーザーの心を動かすCXの仕組み──「ついやってしまう」体験のつくりかたとは?


──著書の中で書かれていた「プレイヤーを成長させる体験デザイン」につながる話ですね。その観点で、玉樹さんが他に「これは良かった」というゲームはありますか?

立場的にすごく言いにくいのですが、Nintendo Switchで大ヒットしたゲーム「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」ですね。「ゼルダの伝説」シリーズの中で、初めてオープンワールドを採用した作品です。ユーザーを放置するオープンワールドとゼルダの伝説は相性がどうだろうと思ったのですが、ピタッとハマってましたね。

──これまでのシリーズと違い、どのような違いがありましたか?

これまでのゼルダの伝説シリーズは、ゲームを進めるごとに、必要なアイテムを獲得できる仕組みでした。しかし、ブレス オブ ザ ワイルドは最初のステージで全てのアイテムをユーザーに与えて、あとは放置したのです。

プレイヤーは途中でどうしてもクリアできない壁にぶつかるのですが、そこで新たなアイテムがもらえるわけではありません。どう切り抜けるかは、手持ちのアイテムを駆使して考えなくてはなりません。でも完全に放置するのではなく、たとえばちょっとした違和感のようなかたちで、ヒントがちゃんと散りばめられています。

ヒントは与えつつも、最後はユーザーに気づいてもらう。説明書を読まなくても、プレイヤーが自発的に学びながら成長していくというすばらしい体験デザインになっています。古巣ながら「任天堂はなんてものを作ってくれたんだ!」と思ってしまいました(笑)。



玉樹氏は、2019年10月25日にXD運営元のプレイドが開催した「CXDIVE 2019 AKI」のセッション「体験でイノベーションを生み出す」にも登壇し、人々の心を動かす体験を作るためのヒントを語ってくれた。当日のレポートはこちらにまとまっている。

──ラスト・オブ・アスやゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドは長編のゲームですが、昨今だとオンライン対戦やソーシャルゲームなど、手軽に遊べるタイプのゲームも登場しています。これらについて、玉樹さんはどう思われていますか?

私は良いことだと思いますよ。簡単なゲームもあれば、難しいゲームもある。この“幅”があるほうが面白いですよね。かつては単純にITの技術が発達していなかったので、画面は平面、キャラクター数も定められていて、限られた幅でしか表現ができなかった。

しかし、今は複数人で同時に接続して遊べるオンラインゲームや、スマートフォンで手軽に楽しめるソーシャルゲームなど、技術の発展によってゲームの可能性が広がっています。昔は大きな会社しか作れなかったゲームが、今ではどの国の人でも年齢に関係なく開発し、商売まで可能となりました。プレイヤーはその中から自分に合うものを選んで遊ぶことができる。ゲームという文化は、これからもっと豊かになります。

──一方で、課金のしすぎが問題視される、ということも発生していますよね。

言葉選びが難しいですが、スーパーカーが大好きで、スーパーカーを買いすぎて破産した人は、スーパーカーではなく、「本人が悪い」と言われますよね。おなじことが、ソーシャルゲームなどに課金しすぎた人についても言えるでしょうか?

ゲームは生活必需品ではありませんし、産業としても歴史的にも、まだまだ弱い立場にあると思います。一方で、新しいメディアであるがために、新しい課金の仕組みなどが即座に市場に投入され、ユーザに悲しい思いをさせてしまうこともありました。
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ライター=藤原梨香 編集=庄司智昭 写真=廣田達也

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