ビジネス

2020.03.23 07:00

どん底の下請け屋根屋からアフリカの救世主へ転生した男


なぜ、諦めなかったのか?そう聞くと、川口は意外な話をした。

「知事から県庁に呼ばれて再生可能エネルギーの有識者会議に出た。東京の大手コンサルも入った会議だけど、屋根に載せるパネルは重いほうがいいと言う。風で飛ばされないから安全だ、と。誰も屋根の構造をわかっとらんのよ。

絶対に軽量にすべきだと俺が説明すると、それが東京で噂になってパナソニックとか大手の電機メーカーが続々と、うちにやって来た。そしたら、誰一人、屋根のことを理解していない。こんな広い遊休地を誰も活用できないなんて、そんなバカなことあるか。屋根屋として、絶対に諦められんかったよ」

問題は屋根屋の矜持をどこで生かすか、だ。

敗北の地で発見した「真の需要」


東日本大震災からしばらくたって、川口は再び敗北を喫した。ミャンマーの大臣たちを紹介され、電化率が低い最貧国で川口のフィルム型ソーラーを生かせないかというのだ。しかし、3度、足を運んだ末に打ちのめされての敗退となった。「日本企業の典型で、質はいいけど価格がネックになった」と言う。だが、ミャンマー政府から非電化村に招待されたとき、その光景に彼は目が覚める思いをした。

「電気のない生活だけど、みんな目が生き生きとしている。ディーゼルエンジンの小型発電機の燃料費で生活は大変だけど、誰もが下を向いて歩く日本とは大違い。だったら、電気のない人に電気を届けたらどうだろう。もっと豊かになれるかもしれない。そう思えてきたんよ」

産業用屋根からの大転換だった。そんなとき、ウガンダ行きを誘われた。「エンテベ国際空港から首都カンパラを経由してナイル川の入り口まで車で約4時間。その道中、もう俺は窓からずっと興奮して外ば見とったとよ。なんだ、この活気は!って。これは商売になるぞと思ったね。人間の活気のすごさに反比例してインフラはない。でも、大きなインフラはいらない。懐中電灯ほどのインフラだったら、俺だってできる。需要はある。以来、俺は取りつかれたようにアフリカに通ったよ。14カ国。行けば行くほど、モチベーションが上がったね」

14年、ナイジェリアの日本大使館から連絡が入った。GGP(草の根・人間の安全保障無償資金援助)の申請をしないかというものだった。900万円の援助が決定すると、非電化村の学校、病院、警察に明かりがともった。幹線道路には65本の街灯が設置され、明かりの下に人々が集まり商売が始まった。近隣の町から買い物客が来て、経済活動が誕生したのだ。そして明かりによって犯罪が減った。まさに太陽光がもたらした恵みである。

かやぶき屋根にも載せられるし、木にも巻けるフィルム型ソーラーは他国や難民キャンプに広がった。協力者も相次いだ。大島賢三元国連大使に、政府や企業。ベナンのゾマホンもその1人だ。彼が言う。「途上国のいちばんの問題は教育。教育が行き届かないと、道路も産業もつくれないし、国が発展しません。川口社長は学校に電気をつけて、雨の日に真っ暗になる教室で勉強ができるようにしました。夜は大人たちが集まって、歴史の勉強会をやっているし、治安が良くなった。だから私たちはこの救い主を生んだ佐賀県に感謝してるのよ」

ベナンの動画を見た。暗い教室に電気の明かりがともった瞬間、子どもたちが大歓声をあげてはしゃぎ回る。「仕事をして、こんなに喜ばれたことは人 生でなかったよ」と、川口は言う。川口の市場は地 球上の13億人の非電化地域にあったのだ。

次の課題は、継続させるためのビジネススキームである。「GOOD ON ROOFS」と名付けたプロジェクトを、昨年、一般社団法人化させた。大島賢三、 米倉誠一郎、藤沢久美などそうそうたる面々が協力 者として理事に就任した。川口が説明する。

「協賛企業から屋根を借りて賃料を払い、無料で太陽光パネルを設置。これで再生可能エネルギーを生み出して販売する。これは大手企業と金融機関が行っている基本的な屋根貸しモデルやね。ここに我々はアイデアをプラスした。収益の一部を寄付してもらえたら、それで非電化地域の学校などで電化をやる。途上国の教育はその国をつくる。そこに日本企業が少しずつ力を貸すというドラゴンボールの元気玉みたいなもんですたい」

一般社団法人がこのスキームを運営し、国内でのパネル設置は川口スチール工業が行う。ベナンではゾマホンらが協力している日本語学校を卒業して電気技師になった若者たちがパネル設置を行っている。国連のSDGsが追い風となり、事業にはJA三 井など大手が参加。本来なら電力会社としてライバルとなるはずの中部電力も提携を決めた。

現在、このPPA(Power Purchase Agreement)モデルと呼ばれる自家消費型太陽光発電市場は、国内で43億円。そのうち8億円が川口たちである。10年後、30倍に成長するといわれている。「今度、ベナンで実証実験をするんよ」と彼が見せてくれたのは、一度に100個のランタンを充電できる壁面型の太陽光充電装置であった。独自に開発した装置を学校に設置する。「学校に勉強しにこんと、家のランタンを充電できんったい」。面白そうに話す彼は、このビジネスに名前をつけた。Light for all at school。学びやから拡散される希望の光。いま、屋根の上の社会事業家は、国内の企業にこう訴えている。「屋根ば貸してください」と。


そのほか、同時グランプリを受賞した「COEDO(コエド)ビール」の協同商事(埼玉県川越市)など、危機をバネに進化を遂げたスモール・ジャイアンツたちの逆転のストーリーを一挙公開。フォーブス ジャパン2020年5月号は3月25日(水)発売!購入はこちらから。


文=藤吉雅春 写真=佐々木 康 スタイリング=堀口和貢 ヘア&メイクアップ=AKINO@Liano Hair(3rd)

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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