テクノロジー

2020.03.12 08:00

医療費削減も。5Gが医療現場と患者にもたらす多大な恩恵 #読む5G


5Gの導入で、特に治療の効果向上や医療費削減が期待できる(5G導入の費用対効果等が試算可能)と予測されるのは、Stroke(いわゆる脳卒中)だ。

CDC(Centers for Disease Control and Prevention アメリカ疾病管理予防センター)によれば、アメリカでは年間79万5000人が脳卒中を発症、14万人が死亡(死亡原因の第5位)している。治療から病欠補償までの連邦政府の負担は年間340億ドルである。

血流停止1分で100万個の脳神経細胞が回復不能になると言われる脳卒中では、早期診断や早期治療が何より重要だ。特に発作の87%を占める虚血性脳卒中では、発症から3時間以内に血栓溶解剤を投与できた患者は、投与しなかった患者より回復が早く、予後にも障害が残らないか、残っても軽いことがわかっている。

治療開始が遅れると治療が長引き、予後に重い障害が残る可能性が高く、時には生涯にわたる長期のリハビリテーションや介護を必要とする。このための行政負担も大きい。

早期診断や早期治療を徹底するため、CDCは、脳卒中患者の医療機関への搬送に救急車を利用するよう国民を啓発している。搬送中から診断や治療に取り掛かるため、「Stroke Ambulance(救急車)」と呼ばれる脳卒中患者のための特別仕様の救急車の配備も進んでいる。

Stroke Ambulanceを5Gで進化させれば、前述のスマート救急車のような迅速な治療も可能となる。専門医が常駐しない医療機関でも、遠隔診療で専門医と密に連携し、共時的にデータモニタリングや検査画像の共有が実現できれば、治療を確実なものにできる。

脳卒中では、質の高い早期治療が確実に医療費コストを下げることがわかっているから、スマート救急車はじめ5G対応の新しい脳卒中治療には、公的医療保険のメディケアやメディケイド、また民間医療保険からも、支払い償還が期待できる。今後も、この領域には5G導入の強いインセンティブが働くにちがいない。

いずれにしても、5G技術の導入で、医療の世界は、治療面においてもコスト面においても、多大な恩恵を受けることは確かだ。


西村由美子◎現職は国際ビジネスを手がけるフリーランス・プロデューサー。医療問題を中心に米国事情を日本の雑誌に寄稿するライターでもある。公職は日本ドナルドマクドナルドハウス財団評議員および厚生労働省医療系ベンチャー推進協議会構成員。前職はスタンフォード大学アジア太平洋研究所「医療政策比較研究プロジェクト」アソシエート・ディレクター(1991〜2004)。研究のかたわらタイムリーなテーマで開催する国際会議や民間企業と共同で手がける新規ビジネスの企画に定評。1990年渡米、以来米国シリコンバレー在住。


西村由美子
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文=西村由美子

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