現在の医療業界では、診療記録からMRIなどの画像情報まで、患者1人1日あたり数百ギガバイトを超える大容量データをやり取りしている。
これらのデータは、診断や治療方針を決定するために、複数の医師や施設間で共有される必要があるが、容量が大きいため、現在は日常業務に支障のない深夜などに一括送受信されている場合がほとんどだ。これが診断等に時間がかかる原因の1つとなっている。
5Gネットワーク化が進めば、検査終了と同時に、医療チーム全員が患者の検査データを共有することが可能になるだろう。そうなれば、診断やセカンドオピニオン取得のスピードも格段に上がり、治療開始も早まる。また治療の微調整も適時できるようになって、ケアの質の向上とサービスの効率化が同時に期待できる。
慢性疾患患者のケアにも、5Gは大きな力になるだろう。常時接続でモニタリング可能なウェアラブル機器の使用は、患者により積極的で自発的な治療に取り組ませる効果がある。現在は患者側からの大量データのアップロードには制限が多いが、5Gで可能になれば、患者はウェアラブル機器からのすべてのデータを医師とリアルタイムで共有しながら、細やかな疾病管理ができるようになるだろう。もちろん、医師のケアの質もQOLも向上する。必要な時に必要な処置がタイムリーにできるのと同時に、予防にも力を注ぐことができるようになれば、患者が負担する医療費の削減ものぞめるはずだ。
5Gの導入は、テレヘルス(遠隔診療)をもっと身近なものにしてくれるだろう。たとえば、小児科医の診断を受けようとしたときには、子どもの親はまずARアイウェアを装着。オンラインで医療機関にアクセスして、医師の指示に従いながら、診察を受けたり、処置をすることができる。さらに、各種機器から子どものバイタル・データをリアルタイムで医師に送信。医師はより的確な診断を下せるだけでなく、子供の患者と親の手元を見ながら適切な処置を指示できるようになる。
いずれも5Gで圧倒的な進化が期待される領域だ。
5Gの未来を実感させた遠隔手術
5Gで実現可能となる未来を、さらにビジュアルで強く印象づけた技術といえば、2019年、中国の医師が数千キロ離れた病院の患者に実施した、ロボットアームでの脳外科の「遠隔手術」である。
このような遠隔手術は、医師の手の微細な動きが精緻に遅延なく手術用のロボットアームへ、そしてロボットアームの多数のセンサーから採取されるデータが精緻に遅延なく医師へと、リアルタイムの双方向伝送が実現できて初めて可能になる。
加えて、遠隔手術中の医師は、多種多様な機器から採取される患者のバイタル・データのすべてを、さらに患者や手術室の映像ストリーミングを、同時に見なければならない。これらすべてのデータを、高速で遅延なく安定伝送できたのは、中国の最先端5Gネットワーク網があればこそだ。