さらに、5Gの圧倒的な強みを生かした医療分野での取り組みは、救急車にも活用できるだろう。2019年のモバイル・ワールド・コングレスで、ボーダフォンが地元バルセロナの医療機関と連携してつくった「5G対応の救急車」がデモ出展された。移動しながらでも映像を含む大容量のデータを高速で遅延なく安定伝送できれば、移動しながらの処置の可能性も広がるため、救急車は5Gで劇的に進化する。
従来からのバイタル・データの採取に加え、最新のデジタル診断機器、たとえばポータブル超音波診断器やAI診断サポート付EKG(心電図)等も利用可能になる。精緻な患者データがリアルタイムで搬送先の医療機関と共有できれば、患者の初期診断の精度は確実に向上する。
パラメディック(高度な緊急医療処置ができる救急隊員)がARアイウェアを装着し、患者と自分の手元を映像ストリーミングしつつ、医師とコミュニケーションできれば、医師の支援や指導のもとで患者のトリアージや初期治療が実施でき、患者は搬送車内から医療機関までシームレスな治療が受けられる。
また、このスマート救急車にはモバイル・クリニックの機能も期待できる。事故現場等で救命救急士が遠隔診療で、医師と連携しながら患者の治療にあたれば、医療機関への無用な搬送も回避できる。患者にも朗報だが、ER医療費の削減も実現できる。
効果が絶大な脳卒中治療への5G導入
アメリカでは、緊急通報の911で出動する警察官や消防士や救命救急士等は「First Responder」と呼ばれ、市民の命を守ってくれる街のヒーローとして敬愛されている。そのヒーローを支える企業もまたヒーローであり、これがFirst Responder向けの5G対応ソリューション開発に力が注がれている理由でもある。
それらの開発は、公共の安心や安全(Public Safety)を重点課題の1つとするスマートシティ構想の一環として取り組まれている例も多い。
通信キャリア大手のベライゾンは、広域スマートシティ「Connected DMV(DMVはワシントンDC、メリーランド州、バージニア州を指す)」のエリア内に、「5G First Responder Lab」を開設。開発への投資資金から実験ラボまでを提供して、商用可能な緊急出動専門職向けのソリューションの開発を進めている。
Connected DMVでは、5Gネットワークを活用し、緊急出動にあたっては従来の行政区画にとらわれず、物理的な距離、道路事情、各拠点の配備車両の可用性等から最速で現場に到着できる出動体制を取れるシステムを導入している。
5G First Responder Labが、毎年5社ずつ厳選してきたベンチャー15社中の1つであるSimX社は、VRやAR技術を活用した救急医療専門職のトレーニング用シミュレーションソフトウェアを開発。高額なマネキンを使用したトレーニングによって、従来の10分の1の価格で、より柔軟で使い勝手の良いサービスの提供を実現した。