昨年の夏前、私がよく読んでいるフランス人ジャーナリストの書いた記事に、「ヴォロ・ヴァン(vol-au-vent)」の写真を冒頭に掲げているものを見つけた。ヴォロ・ヴァンとは、パイ生地を焼いて器に見立てたものに、鶏むね肉、仔牛もしくは仔羊の胸腺、きのこなど詰め物をした料理で、具材にソースを加えて仕上げる。写真からはホワイトソースが見てとれた。
記事で見たヴォロ・ヴァンを出す店には、訪れる機会がつくれないまま12月になった。ホリデイシーズンにはぴったりの料理だと思い、年の瀬に出かけようと電話をしたら、クリスマスバカンスで店が閉まっていた。
タイミングが合わなかったなあと思っていたら、年明け早々に出かけた、前回このコラムでも紹介した「ラ・ブルス・エ・ラ・ヴィ」で、「アキコ、カフェ・デ・ミニステールには行った?」とスタッフのヴァンサンから訊かれた。
「行ってない! 年末に行こうと電話したらバカンスだったの」と伝えると、「ああ、1週間休みを取っていたね。以前、スプリング(ラ・ブルス・エ・ラ・ヴィのオーナーシェフが経営していた店)で働いていたスタッフがオープンした店なんだ。アキコも好きだと思うよ。行ってみて」とショップカードをくれた。
それで、さっそく翌週の月曜に、ヴォロ・ヴァンを食べに行くことにした。
嬉しくて笑いが込み上げる料理
ランチに出かけると、ムニュ・カルト(プリフィクスのアラカルト)には、フォアグラのテリーヌ、生牡蠣、鶏レバーと豚肉のテリーヌ、アンディーヴのサラダの前菜と、仔牛もも肉と小粒のジャガイモ、ノルマンディー産のホタテなどのメインが並んでいた。
加えて、昼だけに出される少しお得な限定ムニュでは、前菜にビーツとスモークしたウナギのサラダ、メインは鶏のロースト、デザートはマロン風味のシャンティイクリームのパイとあった。
ビーツとスモークしたウナギのサラダ
目当てのヴォロ・ヴァンは、オススメとして黒板に書かれていた。
「ザ・ビストロ的な料理」、例えばステック・フリットとか、カスレのような煮込み料理はない。かといって、昨今主流の、素材だけを書いているメニューとも違い、付け合わせやソースがどの料理にも記載され、クラシックなテイストを感じた。
当日は、東京からパリに来ていた友人を2人誘っていて、都合3人での食事だった。前菜は3人ともサラダを取ることにした。私は、はじめからメインはヴォロ・ヴァンに決めていたけれど、友人たちは少し考えていた。結局、1人はホタテを、もう1人は仔牛肉の料理にすることになった。