「マヨネーズが嫌い」 ロシア人No.1シェフのこだわりと心意気

「ホワイト・ラビット」のシェフ、ウラジミール・ムーヒン


ムーヒンを取材中、彼から逆に「ロシア料理に美食というのは存在してきたと思うか?」と訊かれた。

「もちろん宮廷文化のある国には美食の文化があって当然だし、フランスからシェフを招き、フランス料理との交流も行われたロシアには、美食文化があったはず。フランス料理の1品ずつ出す提供方法も、寒いロシアで料理が冷めないようにというアイデアが逆輸入されてきたものだから」と私が答えると、ムーヒンは満足そうにうなずいた。

そして、「ロシアの美食文化は、ピョートル大帝時代、そしてエカテリーナ2世の時代にその頂点を極めたと考えている」と彼は付け加えた。そして、その豊かな伝統ある文化を、ロシアの地方に残る多様性とともに、現代によみがえらせたいのだとも。

「サステナブル」も取り入れたい


自由を手にしてからのロシアの食の変遷は、まずは1990年代には日本の寿司が一世を風靡した。モダンなファインダイニングが活気づくようになったのは、2000年以降だという。経済制裁があり、かつてほどの好況ではないといわれるロシア経済だが、それでも世界各地でロシアの富裕層の姿を目にする。豊かさを手にした人々が、自国の料理に洗練を求めるようになったのは、自然な流れだろう。

「これからは、ロシアではまだ一般的でない『サステナブル』という考え方を取り入れていきたい。いま、穴が空いた服などを持っていくと、食事中にその部分をアーティスティックに修復して、食後に渡すという新しいサービスを検討中だ」

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自分のお気に入りの服が、「ホワイトラビット」のアレンジが加わった新しいスタイルに生まれ変わり、料理の味覚を持ち帰るだけでなく、着るたびに店をも思い出せるというアイデアだ。そんなサービスも然り、今回提供されたどの皿も、「自由」に対する喜びに満ちていた。

「ロシアのシェフはパワフルだよ。16時間働くことだって厭わない。なんといっても僕たちは、失われた時代を取り返す必要があるからね」

文=仲山今日子

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