「マヨネーズが嫌い」 ロシア人No.1シェフのこだわりと心意気

「ホワイト・ラビット」のシェフ、ウラジミール・ムーヒン


ウラジミール・ムーヒンは、ロシア南部のコーカサス地方のエッセントゥキの生まれで、5代続く料理人の家に育った。ソ連が崩壊したとき、父親はいち早く自らのレストランを再開し、12歳になると、その店でムーヒンは料理の修業を始め、ロシア料理を学んだという。

彼には、天性のクリエイティビティ(創造性)があった。物心ついたときには、祖母のプディングのレシピを応用して、アニメ「トムとジェリー」に出てくるような弾力のあるゼリーをつくろうと試作を繰り返すような子どもだった。

2004年に大学を卒業後、フランスへと渡り、ジュエル・ロブションのもとでフランス料理を学び、2012年にロシアに戻り、モスクワの「ホワイト・ラビット」の料理長に就任する。

VRを使った「時空を超えた料理」も


そのムーヒンが掲げるのは、「コントラスト」というテーマだ。それは、均一であることを強制させられた時代の反動でもあるのだろう。

料理にはホワイトチョコレートを使い、逆にデザートには葉野菜を用いるという、常識の壁を超えた自由な発想、そして12世紀から伝わるレシピを使った料理から、モダンなVR(バーチャルリアリティ)を使ったデザートまで、時空をも超えた料理を提供する。そのクリエイティビティはまさに自由そのものだ。

実際にいただいたムーヒンの料理を紹介しよう。懐石料理のように次々と出される皿には、素材をそのまま列記した料理名が冠されている。

まずは、小麦とライ麦を半々でつくった「ムーンシャイン」と呼ばれる蒸溜酒を手につけ、熱くなるほど手をこすり、焼いた大麦のような香りを楽しむことから食事が始まる。

最初に供されるのは、塩漬けにしたラード「サーロ」。それを、ヴィーガンの人でも食べられるようにアレンジ、ココナッツの果肉を薄切りにして、塩やディルとともにピクルスにしたヴィーガンサーロでスタートした。

続いて、ロシア流にスプーンでたっぷりすくって食べる、3カ月間エイジングした生のキャビア。そして、木に吊るした根セロリのチップと、プランクトンの粉を散らした酸味の効いたサワークリームを添えた鯖のタルタル。海と陸のコントラストが楽しめる。

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次に、ムーヒンの大好物だというウニをふんだんに使った「柿、ウニ、栗の蜂蜜、クロポフカ」。クロポフカとはコケモモのことで、独特の香りがある。薄切りの柿でウニのクリームを挟み、上から栗の蜂蜜とトリュフ塩をかけてある。これに合わされるコケモモのカクテルは、栗の蜂蜜のコクとマッチしていた。

「ホタテ、人参、ラズベリー」は、北海道産のホタテをビーツで色付けし、ラズベリー、人参、ウォッカのソースに合わせたものだ。サイドに添えてあるのは、木靴に塩やニンニクなどを入れて焼いた伝統的な調味料。

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文=仲山今日子

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