ランドルフが書き上げた脚本は、すぐにこの映画でプロデューサーも務めるシャーリーズ・セロンによって目が通され、「とてもパワフル」という評価を得て映画製作が動き出す。シャーリーズは友人でもあるジェイ・ローチに脚本を送り意見を求め、その後に監督としてもオファーを出した。
しかし、クランクインの直前に、主要な出資を担っていた映画会社が手を引くこととなり、事態は風雲急を告げる。そこで、抜群の交渉力を発揮したのが、この脚本に惚れて、自ら主演することにもなっていたセロンだったという。
「危機を救ったのは、われらが戦士シャーリーズだった。直前に自分が出演していた作品の映画会社に話をつけて、全額出資させたほか、72時間で配給会社とも契約を取り付けた。不屈の精神とタフとカリスマを持ち合わせた彼女だからこそ、誰もが言うことを聞いてしまう」
セロンのプロデューサーとしての力を、ジェイ・ローチ監督はこのように高く評価する。いわば彼女の力なくしては、その作品は実現しなかったと言ってもよいかもしれない。
「このプロジェクトを始めたときは、まだ#MeTooも起きてなかった。そんな時期にこの脚本に出合えたのは運命であり、実現のために働いてくれた人たちには感謝している。この作品は勝訴した女性をヒーローに見せたりする映画ではなく、彼女たちの真実の物語を伝えたかったのです」
セロンは、この作品では、カズ・ヒロの特殊メイクを施し、本物のメーガン・ケリーそっくりに似せてキャスター役を演じたが、まさに彼女の熱い思いがこもった作品でもあるのだ。
(c) Lions Gate Entertainment Inc.
トランプ大統領は観ただろうか?
ちなみに、FOXニュースでセクハラ訴訟が起こったのは2016年7月。日本では同年の8月にSMAPの解散が発表された。「スキャンダル」は、いわば時期的に言えば、SMAP解散の内幕を映画化したようなものなのだ。
劇中では、当時はまだ大統領候補であったトランプもニュース映像で登場して、彼に向かって舌鋒鋭く切り込むメーガン・ケリーへセクハラな中傷を繰り広げる。この場面も、いま見るとなかなか興味深い。
たった3年ほど前に起きたばかりの、このような生々しい出来事(セクハラ訴訟も含めて)を、躊躇することなくほとんど実名で映画にしてしまうところは、いかにもアメリカのハリウッドという感じだ。おそらく日本では無理なことだろう、脱帽するしかない。
「スキャンダル」の原題は「Bombshell(爆弾、突発事件)」だが、まさにこの作品自体が、Bombshellなのかもしれない。さて、ホワイトハウスの住人となったトランプ大統領は、この作品を観ているのだろうか。
連載:シネマ未来鏡
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