FOXのセクハラ訴訟を映画化「スキャンダル」が描く放送局の内幕

『スキャンダル』2月21日(金) TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー(配給:ギャガ) (c) Lions Gate Entertainment Inc.

それにしても、ハリウッドの「早技」には驚くばかりだ。なにしろ、2016年にアメリカの「FOXニュース」で起こったセクシャルハラスメント訴訟を、もう映画にしてしまうのだから。しかもドキュメンタリーではなく、実話に基づくドラマとして。

第92回アカデミー賞では、日本出身のカズ・ヒロ(アメリカに帰化して辻一弘から改名)が2度目のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した、シャーリーズ・セロン主演の映画「スキャンダル」。全米で視聴率第1位を誇るニュース放送局を舞台に、セクシャルハラスメント訴訟の渦中で揺れ動く3人の女性たちの葛藤を、三者三様、見事なコントラストで描いている。

作品のモデルとなった実際の騒動だが、2016年7月6日、FOXニュースで、長年、局の顔としてキャスターを務めてきたグレッチェン・カールソンが、開局以来CEOを務めてきた絶対権力者ロジャー・エイルズを、セクハラで提訴したことが発端だった。

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(c) Lions Gate Entertainment Inc.

グレッチェンは、直前にFOXニュースとの契約を打ち切られていたが、それはロジャーから強要された性的関係を拒絶したからであると訴えたのだ。のちにドナルド・トランプの大統領選のキャンペーン顧問にも就くロジャーは、セクハラの事実は否定していたが、7月21日にCEOを辞任。翌年の5月に77歳で死去している。

グレッチェンの告発には、FOXニュースで女性キャスターのトップの座を争っていたメーガン・ケリーも同調。ほかにも何人もの女性が、過去にロジャーからセクハラを受けていたと名乗り出た。

結局、訴え出たグレッチェンは、この件に関しては、以後、口を閉ざすという条件でFOXニュースと和解し、2000万ドルを受け取る。一方、メーガンは、翌年、アメリカ3大ネットワークのひとつであるNBCに移籍、ニュースキャスターを務めている。

いずれも、2017年10月に、女優のアリッサ・ミラノがセクハラの被害を受けた女性たちに向けて、声を上げるようツイッターで呼びかけた「#MeToo」運動の前に起きたことであり、グレッチェンとメーガンはその先駆けであったとも言われている。
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文=稲垣伸寿

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