経済・社会

2020.02.06 06:30

日本vs中国、外交戦を左右する恐るべきキーワード


言葉一つでそれほど神経質になる必要もなかろう、というわけにもいかない。中国はイデオロギー主導の国家で、言葉尻を捉えて相手の行動を縛ってきた過去があるからだ。

典型だったのが、2010年ごろからオバマ米政権に持ちかけた「新型の大国関係」だった。米側の対応にあいまいな点があったため、中国は「世界はG2の時代に入った」と外交や学術交流の場などで大いに宣伝した。「中国か米国か」という選択肢を提示することで、日本や欧州などよりも強い影響力を確保しようとした。米国が中国の主張する概念を明確に拒否しなかったため、中国の東・南シナ海への進出を許す一つの契機になったという指摘も出た。


Kim Kyung-Hoon - Pool/Getty Images

また、最近では韓国がこのやり口で散々な目に遭っている。中国は、米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備に猛烈に反発した。中国観光客の大幅な減少などに弱り果てた韓国は、2017年秋、中韓外相会談で関係改善を図った。

中国はこのとき、「韓国が3ノー(三不)に同意した」と宣伝した。すなわち、THAADの追加配備禁止、米国の弾道ミサイル防衛(MD)への不参加、日米韓同盟への不参加の3項目だとされた。韓国側は「そんな約束はしていない」と何度も説明しているが、中国は以降、韓国との会談があるたびに、韓国にこの約束の履行を迫っている。

さらに、昨年12月23日、北京で中韓首脳会談があった。ここでは新疆ウイグル地区や香港の人権・民主化問題が取り上げられた。中国は会談後、「文在寅大統領は、この問題が中国の内政問題だと認めた」と主張した。韓国は事実関係を否定したが、中国は譲らなかった。

ちなみに、安倍首相はこの後に行われた日中首脳会談で、「香港の民主化問題の解決は国際社会にも中国にも日本にも利益になる」と主張。さらに、新疆ウイグル問題にも突っ込み、「国際社会が関心を持つ問題だ」として、「内政問題だ」と反論する習近平氏と真っ向から衝突した。明確に主張したため、会談後に韓国が見舞われた外交的な混乱を避けることに成功した。

では、「新時代」という言葉を巡るゲームのなかで、安倍政権は外交的な成果を挙げることができるだろうか。
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文=牧野愛博

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