経済・社会

2020.02.06 06:30

日本vs中国、外交戦を左右する恐るべきキーワード


日本側は最近の様々な接触の機会に、中国側に対して、習近平氏が訪日した際に、5回目となる政治文書を発表するのか、その形式は共同宣言なのか共同声明なのか、文書を発表するなら、その内容はどうするのか、繰り返し打診している。

日本は、中国が日中戦略対話などで意欲を示している「新時代」の扱いについても当然、問い合わせている。日本政府も、中国が「新時代」という表現を政治的に利用する可能性があると警戒している。協議の場では、新時代の意味について「中国が大国にふさわしい振る舞いをする時代」とし、人権や経済のルールなどの国際規範を率先して守り、発展途上国などを助ける中心的な存在になるという意味だと訴えている。

だが、中国は現時点で、はっきりした態度を示していない。複数の日本政府関係者の証言によれば、わずかに、「習近平主席の訪日が成功すれば良いのだ」という程度の反応だという。別の関係者によれば、「政治文書を出しても出さなくても良い」という日本側に対し、中国側は、習氏の訪日成功を意義づける政治文書の発表にこだわっているものの、やはり内容についてはほとんど言及していないという。関係者の1人は「4月の訪日まで、もう日にちはほとんど残されていない。一体どうするつもりなのか」と気をもむ。

交渉時間を短くし、一気に中国側の要求を突きつけてくる可能性もあるが、過去の例をみると、中国側も相当悩んでいるようだ。過去4回の政治文書を巡る交渉では、中国は台湾問題や歴史認識問題を文書に盛り込むよう主張し、日本側の激しい抵抗に遭ってきた。「新時代」という言葉を巡っても、日本の要求を満足させ、なおかつ中国の思惑も盛り込むことができる表現について悩んでいる可能性がある。

また、香港や新疆ウイグル地区の問題に加え、尖閣諸島近海への中国公船の侵入や、昨年に起きた北海道大学教授の抑留問題などで、与党自民党内には、習近平氏の国賓訪問に対する反発が根強い。現在は、昨年12月に開いた自民党総務会で訪中に反発する意見が飛び交ったお陰で、「ガス抜きができた状態」(政府関係者)だが、こうした状況が改善されているわけではない。

さらに、自民党内にある懸念が、天皇陛下の訪中問題だ。中国には「安倍首相のカウンターパートは李克強首相であり、習近平主席のカウンターパートは天皇」という認識もある。事実、2008年5月に国賓として訪日した胡錦濤主席と福田康夫首相との間で合意した共同声明の際には、中国側から「これは特別な措置だから」という反応も出たという。

習氏が訪日すれば当然、天皇陛下の訪中を招請する可能性がある。だが、専門家の1人は「そんな事態になれば、自民党の右派を中心に反発する声が噴出するだろう」と語る。
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文=牧野愛博

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