朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

Photo by Charly Triballeau - Pool/Getty Images

2020年は、米軍によるイラン幹部殺害という衝撃的な事件で幕を開けた。菅義偉官房長官は1月8日の記者会見で、海上自衛隊を中東に派遣する従来の方針に変更がない考えを示し、河野太郎防衛相は10日、中東への派遣命令を出した。

海自のヘリコプター搭載護衛艦「たかなみ」は2月上旬にも、海自横須賀基地を出航し、中東に向かう。護衛艦と哨戒機P3C2機は、アフリカ・ジブチ沖からオマーン湾にかけ、防衛省設置法に基づく「調査・研究」活動を行うことになる。

事態がめまぐるしく動くなか、自衛隊のこの派遣をどう評価したら良いのだろうか。

評価にあたって重要になるのは、米国とイランとの対立が激しくなるなか、日本が置かれた立場とその外交・防衛力を巡る分析だ。日本は果たして、自分の置かれた立場や能力からみて最大限の努力を尽くしたと言えるのだろうか。一連の事態を取材していくと、安倍晋三首相ら日本政府の動き、それに対するトランプ大統領の反応など、知られざる内幕が見えてきた。まずはそのドキュメントを紹介したい。

イランとイラクに警告したトランプ米大統領

1月3日、米軍は無人機攻撃により、バクダッド空港そばでイラン革命防衛隊のソレイマニ・コッズ部隊司令官らを殺害した。イランは復讐を宣言し、1月8日にイラクの米軍基地を弾道ミサイルで攻撃した。トランプ米大統領は同日、イランに更なる経済制裁を科す一方で、戦争の拡大は望まない考えを示した。

米国メディアも報じた通り、トランプ米大統領によるソレイマニ司令官の殺害命令には、12月31日に起きた親イラン勢力によるバクダッドの米国大使館襲撃事件が大きな影響を与えた。日本政府関係者は「トランプ氏の脳裏には、1979年に起きたテヘランの米大使館人質事件がオーバーラップしたに違いない」と語る。

事実、トランプ氏は「イランが報復攻撃すれば52の目標を攻撃する」とし、テヘラン米大使館事件で人質になった52人を重ね合わせもした。ソレイマニ司令官殺害は、米軍関係者らが必ずしも望んだ選択肢ではなく、それだけに唐突感も米政府内に広がったという。

そして、トランプ氏の怒りは、バグダッドの米大使館を警備しきれなかったイラク政府にも向いた。日米関係筋によれば、デモ隊が警備の厳重な「グリーンゾーン」を突破するのに、相当な時間がかかったにも関わらず、イラク政府は有効な手を打たなかった。また、米政府の調べでは、デモ隊にはイラク政府関係者も参加していたという。同筋によれば、ソレイマニ司令官を殺害した場所をバクダッド空港そばにしたのは、「イランとイラク、双方に対する警告の意味を込めた」(同筋)のだという。

爆殺直後に事実を知った日本

12月31日の事件から1月3日のソレイマニ司令官殺害に至るまで、日本政府は事態の変化を事前に察知することはできなかった。米政府は3日の殺害直後、ワシントンの外交チャンネルを通じて、日本政府に殺害の事実を伝えたという。

文=牧野愛博

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