独自派遣の意義と限界
今回、私が取材した自衛隊関係者らの声は、おおむね、「今の安全保障法制や自衛隊のあり方を考えれば、調査・研究による独自派遣が一番良い選択肢だった」というものだった。消去法として決まった感もある「調査・研究」による自衛隊の独自派遣だが、果たしてどれだけの成果を上げられるのだろうか。
自衛隊が最も期待されるのは、ホルムズ海峡を航行する民間船舶を守ることだろう。だが、ホルムズ海峡はイランとオマーン両国の領海が張り出した海域であり、通常は無害通航権しか認められない。護衛どころか、「調査・研究」も許されない場所だという指摘がある。
仮に、日本関係船舶がホルムズ海峡で攻撃されても、反撃することはイランやオマーンの主権を侵害するという主張もある。また、そもそも、P3C哨戒機の航続距離を考えた場合、ジブチにある基地からはホルムズ海峡までを作戦範囲にすることができないという。こうした事情から、自衛隊の活動範囲は、ジブチからオマーン湾付近までの海域に限られることになった。
ただ、「近くに展開することで、得られることもある」と、自衛隊関係者の1人は語る。この関係者は「私が艦長なら、ホルムズ海峡付近の民間船舶や他国軍の艦艇の動きをできるだけ詳細に情報収集する。その情報を民間船舶に提供すれば、不測の事態への備えになるはずだ」と語る。さらに、「近海には米軍艦艇も多く出動している。片端から共同訓練をやり、意思疎通に努める。軍のチャンネルが生きていれば、不測の事態の際に日本船舶救助を依頼するうえで役に立つ」とも話す。
もちろん、こうした証言は、裏を返せば「自衛隊が日本の民間船舶を直接護衛することは、不可能に近い」という意味でもある。防衛省は不測の事態が起きた場合、海上警備行動を発令するとしているが、「警察比例の原則」に沿った対応しかできない。
だが、こうした不備な点を解消しようとすれば、憲法9条を改正して自衛隊のあり方を根本から変えざるを得なくなる。憲法9条に自衛隊を明記することを目指す安倍政権ですら、自衛隊のあり方や平和主義は変えないとしている。自衛隊関係者の1人は「急激な変化は必ず、世論の分裂を招く。それは日本国民にも自衛隊にも不幸な結果を招くだろう。時代の空気をみながら、ゆっくり変わるのが一番良いんです」と語る。
足りない議論
こうして考えてみた場合、今回の自衛隊派遣には様々な論点が潜んでいる。どの選択肢が最も良いのか簡単に答えを出すことはできない。ただ、残念だったのは、国会でほとんどこうした論点についての議論がなされなかったことだ。別の自衛隊関係者は「公聴会みたいな場所で、様々な議論があれば良かったと思います。ただ、国会はすぐに憲法論や原理原則論に入り込んで、実践的な議論が十分尽くせないところがありますから」と語る。
この議論は、今から始めてもまだ間に合う。日米関係筋によれば、北村国家安全保障局長が訪米した際、米政府からは、引き続き、自衛隊の有志連合への参加を期待する声が上がったという。外交チャンネルでも、米国防総省と防衛省間で協議を続けて欲しいとの考えが、米国から日本に伝えられている。事態はまだ動いているのだ。
1月からの通常国会で、この議論が本格化することを期待したい。