その1人はドナルド・トランプで、数週間前に大統領選でヒラリー・クリントンに勝利したばかりだった。もう1人は、ソフトバンクグループの創業者兼CEOの孫正義だ。孫は、10兆円規模の投資ファンド「ビジョン・ファンド」を率いている。
トランプは、アメリカに雇用を戻すことを公約に掲げており、アリババやアマゾンは雇用創出を約束していた。ソフトバンクは、傘下の通信キャリア「スプリント」とTモバイルとの合併を目指していたが、オバマ政権下では独占禁止法上の理由から停滞を余儀なくされていた。トランプの大統領就任を合併推進の好機と見た孫は、2016年12月6日にトランプタワーを訪問したのだった。
「レディースアンドジェントルマン、マサは日本のソフトバンクの社長だ。彼は、500億ドルの対米投資と5万件の雇用創出を約束してくれた」とトランプは記者たちに述べた。
孫が手にしていた紙に書かれた約束は、トランプの最初の任期である4年間で達成されるはずだった。それから3年が経ち、孫は1年前倒しで500億ドルの投資を達成しようとしている。ソフトバンクの広報担当者によると、ビジョン・ファンドを含めたグループ全体でこれまでに470億ドルを「スラック」やオンデマンドフードデリバリーサービスの「ドアダッシュ」をはじめとする米国のスタートアップに出資したという。
同社は、この約半額の185億ドルを、コワーキングオフィスを手掛ける「ウィーワーク」に出資している。
しかし、ソフトバンクが出資先企業を通じて5万件の雇用を創出したかどうかは、検証が困難だ。同社は、孫がトランプとの会談以降、どれだけの雇用を創出したか公表していない。ビジョン・ファンドの出資先は非公開企業が大半を占め、詳細な情報を得ることはできない。
また、これらの企業のうち、ウーバーやウィーワーク、自動車リース企業「Fair」は赤字を食い止めるため、大規模な人員整理を行っている。
トランプとの約束が未達成に終わりそうなのは孫だけではない。フォックスコンとアリババも、大統領選に勝利したばかりのトランプに雇用創出を約束したが実現していない。トランプが大統領に再選されれば、再び企業経営者たちが彼のもとを訪れ、新たな約束をすることだろう。トランプ自身は、大統領就任以来、700万人もの雇用を創出したと自画自賛している。