これに先立つ12月20日、安倍晋三首相は東京でイランのロウハニ大統領と会談。21日にはトランプ大統領と電話会談し、米国のイランとの間の緊張緩和に努めた。
安倍氏はロウハニ、トランプ両氏に対し、対話による解決を訴えた。ただ、別の関係筋によれば、ロウハニ氏は安倍氏との会談で、イラン核合意などの問題解決については「イランと米国との間の問題だ」とし、日本の仲介を必要としない立場を示した。
トランプ氏も安倍氏に対し、イランへの日本の働きかけを感謝こそしたが、「国際社会とともに、イランに対する圧力を高めていこう」とも語り、米国・イラン対話に消極的な姿勢を示していた。この時点で、日本の仲裁外交は、米国とイラン双方から不要との烙印を押されていたわけだ。
イランのロウハニ大統領と安倍晋三首相の会談(12月20日・東京、Getty Images)
そして、イランによる米空軍基地への攻撃が行われていた1月8日、北村滋国家安全保障局長がワシントンでオブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談した。北村氏はその席で、トランプ大統領に宛てた安倍首相のメッセージを伝えたという。
安倍首相のメッセージとは
日米関係筋の1人によれば、安倍首相のメッセージは「日本と米国は運命共同体である」として、トランプ大統領の判断を支持する考えを強調した。ただ、同時に、「緊張が拡大して対立が深まる事態は、誰の利益にもならない」とも訴え、トランプ氏と米政府に自制した行動を取るよう要請した。「日本も独自に、米国とイランとの対話が実現するよう努力していく」と伝えた。
米国とイランの間を取り持つ日本の仲裁外交に限界があることは、わずか数週間前に思い知らされていた通りだ。それでも、事態がさらに悪化していくさなか、日本政府としては逆に、同盟国である米国と、重要な原油輸入先であるイランとの中間に立つ姿勢がこれまで以上に必要になっていた。
安倍氏のトランプ氏に宛てたメッセージはその窮状を浮き彫りにした。メッセージには仲裁外交の具体的な手段や、イランと対話することについての米国への見返りが書かれていたわけでもない。
「行かない」という選択肢はなかった
米国とイランとの対立が深まるなか、中立外交を目指す日本の立場は徐々に苦しいものになっている。「紛争の危険があるなか、自衛隊を派遣すべきではない」という声も高まっている。
だが、ソレイマニ司令官殺害後、私が取材した自衛隊の現役・OBの人々で「派遣すべきではない」「行きたくない」と答えた人は皆無だった。自衛隊関係者によれば、ホルムズ海峡付近には常時、10隻前後の日本関係船舶が存在する。元自衛隊幹部は「我々を気遣ってくれるのはありがたい。でも、自衛隊は行くなという人々も、タンカーはホルムズ海峡を通ってはいけない、とは言っていないわけでしょう。我々が行かないという選択肢はありえない」と語る。
実際、自衛隊関係者によれば、以前は民間の船舶会社には、「逆に緊張が高まる」として、自衛隊派遣を嫌う声もあったという。ただ、5月にホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃事件が起きた後は、自衛隊派遣を望む声が徐々に高まっていた。