──ブランディングで日本企業が直面する課題とは。
並木:やはり発信者たる企業と、受け手である消費者の関係性だろう。コーポレートブランドに関して言えば、今までは発信者の「何を作りたいか?」という思考が中心にあり、顧客の声はそれを“補完”するものに過ぎなかった。基本的に発信者が軸になっていたのだ。
ところが世の中がこれだけ変化してきた。情報の非対称性が解消されてきた点が大きい。受け手側の力が増してきた。顧客の声が意思決定の軸にならなくてはいけない、というのが現在の大きな流れ。日本ではそれを「できている」と考える会社が多いが、現実的にはそうではない。その特徴は次の2通りに大別できる。
1つ目は、いわゆる「おもてなし」「お客様は神様」という姿勢の企業。これをもって「カスタマー・セントリシティ(顧客中心主義)」だと考えている節がある。しかし、これは「顧客迎合」である。「顧客が言っていることは何でも正しいから、我々はそれに従う」という姿勢は発信者としての意思がない。それは迎合であって、主体性のある意思表示とは言えない。企業は消費者とより対等な関係を目指す必要がある。事実、近年は、消費者がSNSを中心に「『お客様は神様』というのは間違っているのではないか」という声が広がり始めている。
2つ目は、「やりたいこと」ばかりしている企業だ。こうした会社は本来すべき意思ある発信を怠っている。経営者や従業員の視点から見て「おもてなしができている」ことが評価の対象となっている現状がある。過剰な接客サービスなどがその一例だろう。
多くの企業は自分たちにとって都合のよい解釈でブランドを理解しようとしている。ブランド構築に関する多くの議論や研究があるにもかかわらず、ともすると独りよがりで、自分たちが思うようにしかしていない。誤った顧客中心主義に傾きがちだ。東京2020オリンピック・パラリンピックで「おもてなし」があらためてクローズアップされるだろう。だからこそ、このタイミングで顧客満足度にもとづくブランディングについて再考する必要がある。
2月2日(日)後編公開
インターブランド◎1974年創業、世界最大のブランディング専門企業。世界14カ国、18のオフィスを拠点に、戦略、クリエイティブ、テクノロジーの組み合わせにより、顧客のブランドとビジネス双方の成長促進を支援。グローバルブランドの価値を評価したランキング「Best Global Brands」で知られる。インターブランドジャパンは1983年に設立。日系企業、外資系企業、政府・官公庁などさまざまな組織・団体を顧客にもつ。
並木将仁◎インターブランドジャパン代表取締役社長兼CEO。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、グローバルプラクシス、マッキンゼー・アンド・カンパニー、カート・サーモンを経て現職。ボストン大学で経営学士号、HEC経営大学院(HECパリ)とトルクァト・ディ・テラ大学(UTDT)で経営修士号を取得。