──鉄道自殺を防ぐ施策は、具体的にどのようなものがありますか?
まず、ホームドアの設置などは鉄道自殺の発生、ならびに転落事故を劇的に下げる効果があります。国土交通省による新設の駅へ設置義務付けや、古い駅への設置推奨により、2019年3月時点で全国783駅にホームドアが設置されています。
大きく2種類に分けられるホームドアのうち、東京メトロ南北線などで採用されているホームと線路を完全に隔てる「フルスクリーン型」は線路への転落をほぼ100%防ぐことができます。
また、JR山手線などで見られる「可動ホーム柵」も高さが130cm、成人男性の胸のあたりまでの高さがあるため、転落防止に大きく貢献しています。
可動ホーム柵は自殺防止だけでなく、転落防止にも貢献する(写真:Ned Snowman / Shutterstock.com)
ホームドア設置のほかに、ホームの照明を青色にしたところ鉄道自殺数が減少した事例もあります。青色の光が気持ちを落ち着かせるのに一定の効果があるほか、ホームが青く照らされることで、自分の存在が他者の目に止まりやすくなり、自殺を踏み止まるのではないかと言われています。
そのほかにも、通常ならば線路に面しているベンチを違う向きに設置するなど、線路への転落を未然に防ぐ様々な工夫が行われています。
しかし、ホームドアの設置費用が高かったり、設置しても乗り越え線路に転落するケースがあったりと課題は残ります。さらに、柵のない線路沿いや踏切近くの事故を防ぐ方法は未だ確立されていません。
──近年、日本の自殺発生数は減少傾向にあります。鉄道自殺数も同じく減少しているのでしょうか?
一時は年間発生数が3万件を超えるなど「自殺大国」だった日本ですが、2000年頃の景気好転に伴いその数は年々減少していて、昨年はついに2万件を切りました。一方で、鉄道自殺は緩やかな減少傾向にあるものの、ほとんど変化が見られないのが現状です。
鉄道事故をゼロにすることはできません。その一方で、防止策がゼロというわけでもありません。
「鉄道自殺の連鎖」を防ぐためにも、各駅でさまざまな防止策を実践することで、その施策が連鎖するように広がり、鉄道自殺の件数を限りなくゼロにすることが可能だと考えています。
うえだ・みちこ◎早稲田大学政治経済学術院准教授。マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号(Ph.D.)を取得後、カリフォルニア工科大学Assistant Professorなどを経て、2016年より現職。専門は自殺予防学、公衆衛生学、社会疫学など。著書に『自殺のない社会へ』(共著、2013年、第56回日経・経済図書文化賞受賞)など。