──アメリカの大統領は戦時中の選挙でより強いと思われている。今回の行為はトランプ大統領の再選の可能性をさらに強化するか?
トランプ氏の過去判断・行動の多くが、個人的な政治と利害に優先されてきた傾向がある。今回のソレイマニ司令官殺害も政治的計算が働かずしてはおそらく起きなかった。大統領自身、軍事行為が再選に向けて有利に働くことを過去言及している。その観点からも司令官殺害が大統領選に有効であること認識した上で実行に踏み切ったと言える。
すなわち、度重なるイランによる小規模軍事行動に対応・対抗できない自分を「非力で無策」として見られることを嫌い、今回の殺害は自らの指揮・統率力と力を誇示する機会として、何よりも敵勢力の攻撃に対抗する能力を証明しようとしたのだ。
しかし、皮肉なことに、この司令官殺害は2016年の大統領就任以来、トランプ氏が最も傾注した中東地域との友好関係醸成キャンペーンに大きな影を落とす。
駐留米軍のみならずアメリカそのもののプレゼンスが同地域において、さまざまなリスクに晒される結果となった。ましてや、イランとの直接戦争は莫大な人命と予算を失うことを意味し、何よりもトランプ氏が自らの手柄として最も誇りたい、そして人からも評価されたい中東地域における経済的活性化、富の創出機会までも失ってしまう。
イランは司令官殺害の報復としてイラク駐留米軍関連基地2カ所を砲撃したが、最近になって両国はこれ以上報復の繰り返しをしないこと声明した。ただし、この声明は国家間の表面上の取り決めでしかない。つまり、それが何を意味するかというと、イランがその影響下に置く民間の武装組織を利用して、アメリカの戦略拠点を狙った代理攻撃がなくなるわけではない。ここは誰も合意していないのだ。
すなわち、司令官殺害は全面戦争の直接的引き金にはならないとしても、イランの軍事行為を抑止する上では効果がないのだ。一方で、トランプ大統領自身はこの軍事作戦で一時の支持率上昇を経験するかもしれない。しかし、まだ先の長い大統領選が近づくにつれ、この殺害判断が実はハイリスク・ローリターンであることをおそらく自覚することになるのではないか。
トランプ大統領が再選を有利に進めるべく司令官殺害を早い時期に判断した可能性はあるものの、今から投票日までの間に起こりうる想像を超えた複雑なリスクは測り知れない。はたして、本人の政治的計算が正解だったのかどうか。その評価はまさに始まったばかりなのである。