──今回の対イランへの軍事行為が大統領選挙に与える影響は? また、トランプの支持基盤はどう思っているのか?
ちまたでは、トランプ大統領による「力の行使」が、大統領選に優位に働くとする論調もあるが、究極的にはイランを抑止する手法としては逆効果だ。さらにいうと、私たちが考える最悪シナリオである「絶望的全面戦争」にアメリカを引き摺り込むリスクを内包していた。だから、支持者ですら、2020年トランプ再選の可能性を危うくしているという見方がある。
ソレイマニ司令官殺害は、トランプ氏の在任期間を振り返る際、大統領が指示した唯一無二の重大軍事行為と言っても過言ではない。大統領としての評価を左右するだけでなく、米・イラン二国間の未来を決定的に変容した契機として記憶されるだろう。
──攻撃が報復のリスクを上回ると思うか?
最大の問題点は、トランプ大統領本人が描いた決着点、つまり「End Game」がどこにあるか、本人も考えていないと思われる点だ。これまで対イランのシナリオは誤算だらけだった。
トランプ大統領が考えていた外交政策とは、イランに対してさらなる圧力をかけて、イランを交渉テーブルへとつかせて、JCPOAに代わる新たな取り決めを締結することに他ならない。すなわち、制裁緩和の見返りに、核開発はじめイランをさらに強く取り締まり抑止することを可能とする条件内容を求めていた。ところが、これが誤算だった。
確かに制裁はイラン経済を追加で逼迫させた。しかし、交渉を促すという点で効果は現れなかった。それどころか、むしろイランの軍事的行為は増加していった。
昨年9月のサウジアラビア・アラムコ油田施設への爆撃(イエメンの武装組織が犯行声明を出したが、アメリカはイランが背後にいると断定)、米製ドローン2機の撃墜などと続き、昨年末の在イラク米軍大使館攻撃まではトランプ大統領に政治的計算や何らかの働きかけもなく、トランプ自身が目をつむってきたのが実態だ。
今回、軍事的緊張が高まってしまい、JCPOAに代わる枠組みづくりはおろか、お互いが面子を保つ「仕掛け」をイチから考えつかなければならなくなった。これは至難の業だ。トランプ大統領とイラン指導部がそれぞれ面子をつぶさず歩み寄れなければならず、すでに不安定化する中東地域の平和はますます悪化の一途をたどると言える。