しかし、地域ならではの魅力というのは、地元民は見慣れてしまっていたり、よそ者には賑やかなプロモーションの影に隠れてしまっていたり、見出すのが結構難しいものだと思います。
本連載「旅する“元”広報」では、旅産業の広報として日本全国を飛び回って「土」「地形」「歴史」から見出した地域魅力をご紹介していきます。2回目は神奈川県の「箱根寄木細工」です。なぜ、ここで、この名産が生まれたのかという成り立ち注目すると、面白いことが見えてきます。
温泉だけではない箱根の魅力
箱根は日本最大級の温泉地ですが、箱根に限らず、日本各地にある温泉地は「温泉」を魅力として語ると、他の地域との差別化が難しくなります。
今回取り上げた「箱根寄木細工」の表面を覆うのは、黄、茶、黒、赤、青など多彩な木材で彩られた美しい文様です。これらは一切着色されておらず、自然の樹木の色を活かした「ジャパン・アート&クラフト」です。日本を代表する芸術品であり伝統工芸品として世界に輸出されています。
この美しい「箱根寄木細工」を生み出したのは、箱根の多種多様な「土」があったから。その関係性についてみていきましょう。
山あり谷あり、その高低差900m
「箱根の山は天下の険(けん)」という歌があります。険とは、険しいという意味。実際、箱根には山が多く平野はわずか。山や谷地は農作物に必要な日照時間が短く、斜面は耕しにくい。したがって、地域経済を支えるのに農業は不利となり、林業や木工産業にメインになります。
箱根というのはアコーディオンを縮めた時のように山と谷がギュッと詰まった地域だとイメージしていただければ良いかと思います。直線距離にすると約30kmの長さに約900mもの高低差があるのです。京都と東京をつなぐ東海道全体でその高低差を図でみると、その圧倒的な高さは一目瞭然です。
「箱根駅伝」でも箱根5区(小田原と芦ノ湖間)は最大の難関と言われています。この区間を走ったランナーたちの何人かは “山の神”と呼ばれるほどの健脚者。選手たちはこの斜度に耐えられる脚力を養うために、大学のグラウンドではなく、山で走り込みの練習をしていると聞いています。それほど箱根の斜度はキツイのです。
ここでのポイントは、標高が高いところと低いところでは、生えている植物が異なるということです。