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2020.01.09

元ヤフー社長が描く「東京都ICT/ミラーワールド化」構想|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第1回(後編)

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東京都副都知事 宮坂学
東京都副都知事 宮坂 学氏

今の時代、都民の8割がスマートフォンを使っているなか、公園の真ん中でインターネットがつながらないとか、国際フォーラムでイベントの人が多すぎてつながらないとか、スタジアムのハーフタイムは人が多いからWi-Fiがつながらないとか、そういう東京のままでいるのはもうやめようよと。どこでも水道の水が飲めるのと同じく、どこでもインターネットにつなぐことができる街にするため、行政もやれることはやっていこうと。

まずはともかく、Wi-Fiなり5Gなりでつなげるようにしていきたいですね。現状、「日本のインターネットの父」とも呼ばれる慶應義塾大学の村井純先生に座長になっていただき、民間と東京都で連携して、ICTインフラ整備への取り組みを進めています。

2つ目は、ICTを使った行政サービスです。場所とモノを持っているからこそ、やれることは多い。役所での申請のスマート化や、都営バスの「半自動」運転化、都立高校の教育サービスにデジタルテクノロジーを導入することなど。

東京都庁の中には、消防や警察から水道局、建設局、福祉保健局にいたるまで事業系の部門が20ほどあります。それぞれが最低1事業、デジタルテクノロジーを取り入れたサービスに挑戦しよう。そう話しています。そうすれば来年は、20のデジタルテクノロジーを使った行政サービスが誕生する。翌年は2倍の40。その翌年はさらに2倍の80、といった具合に増やしていきたい。

3つ目は、都庁職員の仕事環境のICT化です。都庁の建物にいる1万人ほど以外に、水道局や消防署、都立高校の先生、児童相談所の職員さんたちなど東京都の職員は約16万人いるんですが、彼らはフィールドワークがとても多い。現状、そういう人たちの仕事環境にもICTが活用されていないので、いい「道具」で仕事してもらえるようにしたい、と思います。

世界の都市との「都市間競争」の時代、世界の大都市職員のICT環境や陣容と比較すると、東京のそれはかなり劣後している。兵站(へいたん)の充実なしに、ただがんばるべしという精神論はとてもよくないので、まずは人員と装備を、他国主要都市並みにはしていきたい。

「未来の都民」を満足させる

上田:2つ目について、公務員の方たちはとかく失敗を避けるというか、「出口が見えていないとやりたくない」というマインドセットがありそうだな……と思いますが、そのあたりはいかがですか?

宮坂:まあ、誰しも失敗は嫌ですよね。ピーター・ドラッカーも言っているように、組織たるもの、民間だろうがNGOだろうがそれぞれにミッションがあって事業をやっているわけで、それにはイノベーションとマーケティングが必要でしょう。

まずは、マーケティングでお客さんのことを知る。この点は、東京都の行政サービスは世界的にも高いレベルにあり、なかなかがんばれていると思います。むしろ東京都に足りないのは「イノベーション」です。今いる都民を満足させることにとどまらず、「未来の都民を満足させる」ため、行政サービスにイノベーションを起こしていく視点が、不足していると思います。

今でもみんな、現場に足を運んで都民の声を聞いたり、「マーケティング」はやっているんです。台風の時も大雨の中、私の自宅近くの河川を消防庁の職員の方が点検されてるのを見て、この街はこういう現場の努力で維持されている、と思いました。

今の目の前の課題に地道に、強い責任感で対処できるそういった強みに加えて、「5%でいいから、毎年新しいことをしよう」というイノベーションの気運が実装できればと思うんです。
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構成・文=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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