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2020.01.09

元ヤフー社長が描く「東京都ICT/ミラーワールド化」構想|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第1回(後編)

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上田:そのうえでは、民間との協業はやはり欠かせないんですよね?

宮坂:イノベーションはいつも、新しい組み合わせ、すなわち「新結合」から起きます。都庁の人たちも従来以上に、外部のエキスパートとか、これまで面識のなかった世界の人たちと出会わないと「新結合」は起きない。また国内外のスタートアップ企業、社会起業家たちといったこれまで比較的接点の薄かった人たちとももっと交わり、「新結合」を起こしていくことが大切だと思います。

上田:もともと東京都には、まじめで有能な職員の方が多いでしょうし。

宮坂:はい。それなのに、さっきお話しした通り、仕事の道具としての情報インフラがものすごく脆弱です。たとえば業務にスマホが使えないこと、庁内にもWi-Fi環境がないところがまだまだあること、ビデオ会議ができないことなど、産業界から見ると、えー? と思うような環境です。

シンガポールやニューヨークや上海といった、都市間競争のライバルである都市の職員は、普通にスマホを使うしWi-Fiもとんでるし、ビデオ会議をやっています。それでも東京都職員は、東京を世界都市ランキング上位に食い込ませるような仕事をしている。

上田:このあいだ北京に行ったんですけど、発展がすさまじい。このままでは東京はおいてかれる、やばいなと思いました。

宮坂:ええ、情報インフラは、日常的に使っていかないとその不可欠さが体感できない。だからこそ行政職員は先端の情報環境のなかで仕事をやっていく必要がある。

そして、今までのインターネットの主戦場はウェブやアプリだったので、サイバー空間、仮想空間の中だけでサービスをつくって勝負をしていたわけですが、いまから都市インフラをインターネットでつなぐことになる。つまりインターネットが仮想空間だけでなくフィジカル空間、物理世界にもつながっていきミラーワールドな状態が出現する。

仮想空間の中では容易にABテストをして正解に近づくことができますがフィジカルな都市ではなかなかそれができない。だからこそ並行して存在するデジタルな双子、デジタルツインを構築し実験をしてみたり、物理東京の中に実験空間を作って実証するフィールドが必要になってきますね。



東京にとってこれから実験できる空間作りがとても大事で、今は西新宿のあたりと、三鷹の大沢のあたりを「実験特区」にしようという動きがあります。

たとえば東京都が持っている道路には、街灯や信号もあります。その街灯は現状「つながって」いないので、今後は携帯電話の基地局や高速でセキュアな公衆WI-Fiにしてみたり、いろいろな環境測定センサをつけて観測網にしてみたり、かっこいいデジタル・サイネージ(電気看板)をつけたりしたスマート街灯とかも考えられる。

仮想空間上ならば簡単にテストサービスをつくって実験できますが、現実空間ではなかなか気軽にそういうものを道路におけない。だからこそ試すことのできるデジタルツインや実験区域みたいなところがつくられていく必要性が増してくると思いますね。

上田:街灯や信号に、クールなデジタル・サイネージ。それらが都市の機能をアートとか芸術と「化合」すると、とても面白いですね。

宮坂:便利なだけだと街にならないと思うんですよ。街には「ストリート感」がないとね。70年代は直線と高さで勝負という時代だったと思うんですが、西新宿や大沢の地域を、間違っても単なる「技術の展示会」にしてはいけない。東京は「街」ですから。

たとえば自動運転車の展示会場のような街並みなら、そこには自動運転業界の人しか来ない。ファッションが豊かで食べ物がおいしい、クラフトビールが飲めるといったストリートとしての楽しさと、デジタル最新技術の融合。それを目指していかないといけないですね。
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構成・文=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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