塩田氏:ありがとうございます。この本にある「ハートドリブン」が必要だと感じたきっかけは、「僕は空っぽな人間だ」と気づいたことにありました。多くの起業家が、実現したい世界観があり、事業をスタートさせています。僕も同じだったはずが、気がつくと投資家やステークホルダーの期待に応えることを最優先にし、実現したかったはずの世界観が見えなくなりつつありました。つまり、相手を喜ばせることを優先しすぎて、自分らしさみたいなものをないがしろにしていく感覚があったんです。
南場氏:そうだったのね。わかる、わかる。でも私、人を喜ばせることの喜びも最近痛感してます。
塩田氏:基本的には僕も南場さんと同じ考えです。しかし、今までの僕は相手を優先して、我慢したり、無理したりすることが続いていました。そのなかで、どんどん自分が空っぽになっていくような気がして……。
南場氏:本にも書かれていた「感情を丁寧に扱う」の原点は、そこにあったわけですね。この言葉は、この本の中で最も印象的でした。それと同時に、「“ハートドリブン”はどういった状態を指しているんだろう?」という疑問もあって。この場だから質問しますが、これって、具体的にどういった状態を示しているんですか?
塩田氏:これは「感情を切り捨てない」ことの重要性を説いています。例えば、新規事業立ち上げなどでは、不安に感じる部分があっても、とにかく突き進もうとするじゃないですか。でも、そこで感情を切り捨てると、気がつかないうちに不安から自分を守る行動をしてしまったり、動けなくなったりします。「感情を丁寧に扱う」ようにすると、その不安を素通りせず、認識しながら事業を進めていく。そると、間違った結果になりませんし、無駄なコミュニケーションもなくなります。
南場氏:なるほど。確かに、相手に「何か思うところがありそうだな」と感じても、「今度伝えてね」で終わってしまうことはよくあります。そこを逃さず、話し合うなどして認識することを指していた、と。
塩田氏:そうです。とはいえ、僕を含め、アカツキ社内でもまだできていないところはたくさんあるのですが(笑)。
「DeNAの社長=完璧な人」は正しいのか?
塩田氏:僕にとって、社会人として初めての会社がDeNAだったことは人生において最高の意思決定だったと思っています。南場さんとの思い出も多くありますが、中でも一番強烈だったのはプレゼン時に「あんたはコンサルみたいで嫌い」と言われたことです(笑)。
南場氏:それ、全然覚えていない…。私が言ったんですよね? ごめんなさい。
塩田氏:当時は「なんでだよ!」と思っていましたが、改めて資料を見直してみると本当にひどくて……。これでよく南場さんに話を聞いてもらえたなと思います。改めて聞きたいのですが、僕が新卒の頃、南場さんはどんな社長だったんですか?
南場氏:私ですか? とにかく「ボロが出ないようにしなくちゃ」と、いつも思っていました(笑)。