──では、21世のリーダーシップはどのようになると思うか?
私はテクノロジー分野の仕事に携わっているので、その業界について話をします。大まかに分類すると2つのメイン・カルチャーがあると思います。細かく見ると、3つのカルチャーですね。
その一つが、第一世代カルチャーで、非常に官僚的な体制の下、成功を収めた企業です。そうしたハイテク関連企業は、たとえばゼロックス、IBMなどです。
次の世代である1990年代に入ると、コンペティティブ(競争原理)とコラボレーティブ(協業原理)の二つのカルチャーに移行していきます。競争原理で成長を果たした企業には、シスコシステムズ、サン、マイクロソフト、インテル、オラクルなどが挙げられます。彼らにとってはカスタマーは競争に勝ち抜いたご褒美のようなもので、本質的にはカスタマー重視のカルチャーとは言えません。
もう一方のコラボレーティブを重視する企業は、常に外部に目を向けて、カスタマーサービスの大切さを認識する企業です。そして、21世紀のリーダーシップは、このカルチャーが牽引していくのではないかと考えています。日本の文化的な背景から言っても、もし私が官僚的な組織体系を持つ日本の大企業でしたら、この協業のカルチャーに移行する選択をすると思います。
その大きな理由の一つとしては、日本は元来「おもてなしの心」に重要な価値観を見出す国で、コラボレーションへの移行がスムーズになされると思うからです。私は仕事柄これまでに様々な国を訪問していますが、日本ほど外部からのお客様や、カスタマーを大切にする国に出会ったことはありません。
──日本の「おもてなし」は世界から称賛されているようですが、おもてなしとビジネスの関係についてはどう思うか。奥ゆかしさと、はっきりと意見を言わなければいけないビジネスの間でジレンマを感じ、どのように対処したら良いのか迷う日本人もたくさんいる。
そこはとても面白い視点ですね。アップル、マイクロソフト、アマゾンのようなIT企業はよく「To be Japanese-like」 というようなキャッチフレーズをうたったりしてますが、これはもちろん、「日本人になれ」と言っているわけではなく、カスタマーに対してハンブル(謙虚な)な気持ちを忘れないで欲しいという代名詞として使っているのだと思います。
一つ言えるとすれば、日本が誇る伝統的なおもてなしを核に持ち続けながら、デジタルツールを上手に駆使していくことができれば、ビジネス的にも素晴らしい結果を出す事が出来るのではないでしょうか?
ジェフリー・ムーア◎キャズム理論の創始者として知られるマーケティングの世界的権威。「TCGアドバイザーズ」共同経営者。「モール・ダビドウ・ベンチャーズ」所属のベンチャー投資家でもある。『キャズム』(翔泳社)に続き、『トルネード』(小社刊)もベストセラーとなり、ハーバード大学、スタンフォード大学、MITなどで教科書に採用される。著書には他に『ライフサイクルイノベーション』『企業価値の断絶』(ともに翔泳社)、『ゴリラゲーム』(講談社)がある。いずれもベストセラー。