──日本の場合、特に大企業で働く従業員のマインドセット改革が必要と言われ続けてきていますが、この点についてアドバイスできることは?
日本の大企業は、それぞれの役割分担がはっきりと分かれていて、カスタマーと接する機会を与えられるのはごく限られた人材だけというのが現実だと思います。しかし、これからのビジネスは企業に属する人材の一人一人、あるいはより多くの従業員が、カスタマーリレーションをより身近に認識する機会を増やすシステムづくりを構築するべきだと思います。
一例を挙げると、1980年から1990年代に掛けてヒューレット・パッカードは、企業内を50万ドルから100万ドルの売り上げ目標を持つそれぞれのユニットに分解しました。このユニット化の幅が増えれば増える程、事業に対する一人一人の責任感が増し、業績も上がることが実証されています。
また、企業カルチャーの改革を推進するためには、まずは一人ひとりの従業員がただ単に上司の指示に盲目的に従うのではなく、カスタマーニーズに応えるためには何をするべきか考え、ビジネス方針を組み立てることが大切だという認識を持つようにすることだと思います。
管理職は総じてこうした変革を嫌いがちですが、現在のビジネスでは、そうした世の中の動きに敏感に対応する事を余儀なくされています。大企業はこの現実から目をそらしてはいけません。
──「もの言わぬ体制」は変えていかなければならないとわかりつつも、どのようにしたら改革ができるのかという答えはなかなか見つからないというのが現状かもしれない。
確かにその通りだと思います。ここで、日本でも有名なウィリアム・エドワーズ・デミング氏の“Change is not required, because survival is not mandatory (改革は死ぬか生きるかの選択を迫られたときに初めて生れるもの)”という名言を紹介しましょう。
これはまさに現実を言い当てていると思います(笑)。いくら大企業が、世の中の変化、あるいは消費者のニーズに沿って改革することを拒んでも、それは企業の身勝手というもので、情報豊富なカスタマーに力が移行している現在の世の中で、いずれ企業は変化せざるを得ないのです。