キャリア・教育

2019.11.21 07:30

男性の育休取得率80% メルカリに学ぶ「選ばれる企業」の戦略


今回のイベントには、育休を取るために上司を説得する難儀さや、育休後にちゃんと職場復帰できるか不安を語る人、さらには、そうした体験から、会社を辞めてしまった人も参加していました。育休をできるだけ取らない、または、取得しても短くするようプレッシャーをかけられることは当たり前という会社で働いている人もいました。

育休の許可を取りにくい企業体質は大きな問題です。「迷惑をかけないように」とだけ言うのではなく、それをマネジメントするのが上司の務めではという声もありました。これらが、日本で男性育休の現実です。

メルカリでは、80%以上が育休を取るようになるまでに、いくつかの工夫をしてきました。まず、社長や会長の経営トップが自ら育休を取って、社員へのメッセージとして範を示したこと。また、育休はだいぶ前から計画しやすいので、権限の委譲をはじめ、育休時のチームへの移行準備は、マネジャーの仕事だとしています。

そして、育休中に“浦島太郎”になる不安がないように、コミュニケーションツールのSlackを活用しています。「これを上手に使えば、情報が見える化されるので、育休も長期出張と似たようなもので心配ない」と小泉氏。つまり、社内のコミュニケーションや仕事の仕方を、会社全体で次世代型にバージョン・アップしているのです。

コミュニケーションや業務のあり方が古いままでは、成果は上がりません。育休にも対応できる組織とマネジメントに会社を進化させれば、さまざまな面で高パフォーマンスの企業へと発展できるのではないでしょうか。

流れを先取りできないと手遅れに

小泉氏は、育休取得に不安を持つイベント参加者の声に、「僕は経営者として、(社員にこうした思いをさせれば)退職リスクがあるなと考えてしまう」と語りました。会社にぶら下がろうとする社員ならそうそう辞めないでしょうが、スキルやヤル気のある人材は会社を選ぶようになるでしょう。

いまはまだ、日本で取得率6%にとどまる男性の育休ですが、公務員の育休1カ月以上の実施も決まり、流れはできつつあります。イノベーション普及の目安と言われる16%を超えたあたりから勢いがつくかもしれませんが、その時にやろうとしても、準備ができてなければ取り残されます。

このところ、「ティール組織──マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(フレデリック・ラルー著)や「組織の未来はエンゲージメントで決まる」(新居佳英、松林博文著)など、新たな組織論をテーマにした書籍が話題となっていますが、これにはいくつか理由があります。

まず、ますます人材を活かすことが大切になってきている。次に、時代とともに社会も人の心も変化してきている。そして決定的なのは、日本企業の経営が劣化してきて、変化に対応できず、従来のやり方が通用しなくなりつつあるということです。

企業は新たな組織を必要としていて、日々模索しているところと言ってもよいでしょう。そういう意味で言えば、いまから組織の変革のために、行動を起こしておいたほうがよいのではないでしょうか。まずは手始めに育休からです。

連載:ドクター本荘の「垣根を超える力」
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文=本荘修二

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