目の前のニーズを満たす事だけを考えれば、「次の世代」や「外の社会」に及ぼす負の影響は軽視しがちだ。
温暖化で暑くなってきたと言われてもエアコンは止められないし、一部の労働者が劣悪な環境に晒されていると責められても生産コストは上げられない。増え続ける電子ゴミから大量の有毒ガスが発生していると言われても、電化製品の買い替えを促さないわけにはいかないだろう。目の前のニーズを満たす必要があるからだ。
「皮肉」に打ち勝つために
そんな中、じわじわと注目を集めているのが「システム思考」という考え方だ。
地球を取り巻く生態系も、家庭・職場・地域といった社会も、個人の思考や潜在意識も、世の中のあらゆるものは互いに影響しあって成り立つ「システム」の一部であると捉えたとき、時間と共に変化する要素の“関係性”に着目することが、社会の複雑な問題を解くのに有効であるとする思考法である。
システムの特徴のひとつは、循環だ。例えば人の体温調節システムは、暑さに対しては汗をかき、寒さに対しては筋肉を震わせることで体温を一定に保つ。需要供給システムは、需要が高まれば価格が上がるが、価格が上がれば需要が減って価格は下がっていく。このように、一方通行ではなく、循環しながら変化することで全体として一定のバランスを保つという性質がある。
一方、システムが許容できる変化には限界があるのも特徴だ。人の体温調節システムは異常な暑さや寒さに晒されれば機能しなくなるし、需給バランスは政治・経済危機によって崩壊することがある。「地球システム」も例外ではない。
地球の限界値を定義した「プラネタリー・バウンダリー」というフレームワークが世界の科学者から提唱されているが、二酸化炭素濃度などの数項目で、既に「取り返しのつかない限界値」を超え始めている。
人間中心デザインを追求した結果、人間を滅ぼすリスクを高めてしまうのは皮肉だ。長期的に人にポジティブな影響を与えたいのであれば、「次の世代」や「外の社会」に及ぼす負の影響を無視し続けるわけにはいかない。
デンマークに根付く「良い循環を生む」存在
デンマークではほぼ全ての道路に自転車専用道路が併設されている
デンマークの首都コペンハーゲンは、世界で最も自転車に適した街であるという調査結果が出ている。市内の通勤・通学の62%に自転車が利用されており、北欧の恵まれない気候にも負けず、人々は日々自転車を漕ぐ。今でも自転車人口は右肩上がりだ。
しかし、この自転車大国においても、第二次世界大戦後の1950年代には車やバイクが主な交通手段であり、当時の自転車のシェアは10%程度だったという。1970年代の石油危機をきっかけに二酸化炭素を排出しない国づくりをビジョンに掲げたデンマークは、自転車のプロモーション政策に国として本気で取り組むことを決めた。