これらの事業に一貫しているのは、「世界から戦争や過度な貧困をなくすこと」を目指している点だ。「ピーステック」と呼ばれる、戦争や貧困をなくし社会課題解決のためにICTを利用する事業を推進しているのもそうした動機に基づいている。
世界では、軍事由来のAIやロボティックスといったテクノロジーを使い、プライバシー軽視のビッグデータビジネスが進行している。その一方で、テクノロジーで20億人とも言われるアンバンクド(銀行口座を持たない人々)を金融・社会的に取り込み、貧困からの自立を促す試みもある。私は識者との対談を通じ、新しいこの試みが、シリコンバレーや中国発ではなく、日本発となる世界戦略として考えていきたい。
金野:このコラムでは、「テックで資本主義をアップデートする」というテーマで、テクノロジーで世界の貧困や格差を解決する方法にフォーカスしていきます。今回は、「デジタルトランスフォーメーションは、開発途上国と世界をどう変えるか」について。
この数十年、インターネットからIT企業が生まれ、テクノロジーで世界を変えてきました。そして今は、IT企業以外のあらゆる産業、政府や公的機関、NPOなどの非営利セクターも巻き込んで、テクノロジーがビジネスだけでなく、人類や社会全体の幸福を実現させていく時代になっています。
その中で、世界におよそ20億人いると言われるアンバンクドが自立するためにテクノロジーをどう生かしていくか。デジタルトランスフォーメーションの第一人者である藤原洋さんにその考えを伺いたいと思います。
藤原:第4次産業革命とも言われるデジタルトランスフォーメーションは、これまでの産業革命と大きな違いがあります。
蒸気機関、自動車、半導体通信やコンピューターが生まれた3つの産業革命で幸福になった人たちは、世界人口のおよそ10%なんです。しかしデジタルトランスフォーメーションには、世界中の人々100%を幸せにする可能性がある。
私は技術畑の人間なので、テクノロジーで人類や社会に貢献できることをずっと考えてきました。だから、世界中すべてにテクノロジーの恩恵が行き渡ることに非常にワクワクしています。これは銀行口座を持たない人が経済活動に参加できる革命なのです。
金野:アンバンクドのためにどのようにテクノロジーを活用し、彼らの幸福実現につなげるのでしょうか。
藤原:まずは企業のデジタルトランスフォーメーション実現です。資本主義社会では、企業間取引、企業と個人の取引で最も重要な要素は信用です。これまでは、銀行口座が信用を保証していました。しかしこれからはテクノロジーによって銀行口座を持たない人でも信用保証ができるようになります。