栗山は、このテレビショッピングへの出演で、生放送の番組では、同じ商品でも見せ方を変えた瞬間に、販売数に跳ね返るということを知った。この経験から栗山は、顧客に刺さるのか否かは「見せ方」だと学んだ。
彼女には、「この商品はどう見せれば売れるのか?」と社内や取引先から相談が相次いだという。ところが、さんざん説明を受けても「これはどうやっても売れません」と断言せざるを得ない「売れない商品」も存在した。結局、商品自体に魅力がなければどうしようもないのだ。売りたいと身勝手に言っているだけで、見せ方を何とかという問題ではないのだ。
栗山は、幼少期と日本製粉に入社した新入社員のとき、神戸市に隣接する西宮市に住んでいた。本当のところ、転職を本気で考えていたわけでなかったという。
たまたま転職サイトに登録したら、すぐにこのポストを見つけた。人口が減り始めているという神戸だが、どう考えても魅力を秘めている。これを伝えていくのは自分であると確信し、思わずサイトの応募ボタンを押してしまったという。
マレーシア支社長から神戸市職員に
オリックスから転職した乾 洋(51歳)は、同社のアジア最大拠点であるマレーシアの支社長だった。シンガポール支社長も兼務し、現地社員600人以上を束ねていた。これまで、ベンチャーキャピタルでの投資業務、海外の現地法人のマネジメントなどの現場を渡り歩いてきた。
民間の企業で、儲ける方法は体に染みついたのだが、逆にビジネスだけという人生では物足りないとも感じたという。
乾洋(前列中央)と栗山麗子(前列左から2人目)
乾は、神戸市の出身、今も実家は神戸市北区にある。民間企業からは、ぜひうちの会社に来てほしいとオファーが目白押しで、一度はわざわざ自治体に行かなくてもと考えたが、これまでと異なる空気を吸うことで世の中との接点を増やせる。それが次のキャリアへのプラスにもなると考えた。
栗山と乾は、新卒で入った会社から神戸市へと、いわば人生で初めて転職となる。2人が、採用内定の連絡を受けたのが5月上旬。ヒットメーカーを手放したくない日本製粉、現役バリバリの海外支社長から辞職願を受けたオリックス。社長をはじめとして幹部からの引き留めも相次いだという。
決意が変わらなかったのは、同じ会社でずっと正社員を続けることが、逆に「リスク」と考えたからだ。
グローバル社会の中で、テクノロジーは猫の目のように変化する。ところが、日本のレガシーな会社は変わらない。新卒採用と年功序列の内部昇格。トップに上り詰めない限り、やがて55歳で役職定年、60歳で正社員でなくなる。人生100年時代のなかで、そのルートを辿るのは、はっきり言ってリスクだと2人は話している。
これから2人が神戸市のエバンジェリストとして、どんな活躍をするのか。何を成し遂げ、さらにキャリアを積み上げることができるのか。これからも逐一レポートしていく。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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