しかし、この現実はなかなか認知されることなく、不妊は女性側の問題としてだけ捉えられ、いまだにはじめは女性だけが治療に勤しむ、といったケースが後を絶たない。
どうすれば、「不妊」に対するジェンダーバイアスは少なくなるのだろうか。全く別の業界で、同じテーマについて取り組む2人の男性の視点から、この課題の突破口を探る。10月4日に公開、「男性側からの不妊」をテーマにした映画「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」で監督・脚本を務めた細川徹、そしてスマホで精子の動きをチェックできるサービスを開発した入澤諒に話を聞いた。
「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」は、作家であるヒキタクニオ氏が自身の「妊活」体験を綴ったエッセイが原作。映画では、49歳の人気作家ヒキタクニオが、ひと回り若い妻サチに「ヒキタさんの子供に会いたい」と懇願され、不妊治療に直面するという内容。ヒキタは病院で自らの精子を初めて調べ、老化現象が起きていることを目の当たりにする。センシティブなテーマを、時には笑いあり、涙ありで描いている。
(c) 2019「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会
一方で入澤が手がけるのは、スマホで手軽に精子の運動率などをチェックできる、男性用の精子チェックサービス「Seem」。妊活に消極的な男性向けに発信するリクルートの新規事業だ。
2人はそれぞれの立場でどのように「男性の不妊」を見つめているのだろうか。そこに「不妊の原因は女性だけにある」という誤解を解くヒントがないかを探った。
男性の不妊は誰にでも起こりうること
──細川監督はそもそも「男性不妊」をテーマに映画にしようと思ったのはなぜでしょうか。
細川:2012年にヒキタさんが書いた原作が出て、すぐに映画化の話しをもらいました。普段はコメディやブラックな作品をつくっているので、「俺にはこのテーマの映画はつくれないんじゃないかな」って思っていました。
でも、原作を読んで、男性の不妊は誰にでも起こりうることだと知りました。いつ自分もそうなるかわからないし、実はすでにそうなのかもしれないし。頑張ったら良くなるかもしれないし、良くならないかもしれないし。その身近さが、映画になりうるなと思いました。