最凶の悪役はどう生まれたか。映画「ジョーカー」が描く孤独の内面


実は、観ていて、マーティン・スコセッシ監督の出世作「タクシードライバー」(1976年)の主人公トラヴィス・ビックルが頭に浮かんだ。

実際、この作品には、孤独な青年トラヴィスを演じたロバート・デ・ニーロが重要な役割で出演しているし、「若い頃、人物描写が中心の映画をよく観ていた」というフィリップス監督の頭の中には、「タクシードライバー」や「セルピコ」という作品があったと思われる。



「悪の天才」誕生へ


コミックを原作とした作品ではあるが、描写の大半はアーサーという1人の男の行動や内面に当てられており、注意深くリアリズムが貫かれていく。のちにバットマンとなるトーマス・ウェインの息子、ブルース・ウェインとジョーカーの出会いも極めて現実的に描かれていく。

もちろん、クリームの「ホワイトルーム」をバックにしたアクションシーンなどもサービスカットとしては存在するが、そこから物語は、バットマンの好敵手となる悪の天才誕生への場面へと展開されていく。

監督のトッド・フィリップスは、これまで「ハングオーバー」シリーズなどのコメディを数多く手がけてきたが、「ジョーカー」では一転、極めてシリアスなアプローチで作品に取り組んでいる。ただ、印象としては、「ハングオーバー」に漂っていた主人公たちが保持する妙にアナーキーな雰囲気は共通なものとしてあり、それはこの監督の持って生まれた資質なのではないかと感じられた。

ベネチア国際映画祭で最高賞を受賞したことで、日米同時公開となったが、その1週間前にニューヨークのタイムズスクエアで見た巨大な宣伝ビジュアルは、当然のごとく、アカデミー賞も視野に入れているのではないかと思わせるものだった。


@inagaquilala

ちなみに、ベネチア国際映画祭の最高賞は、2017年は「シェイプ・オブ・ウォーター」、18年は「ROMA ローマ」で、いずれもアカデミー賞では、監督賞と作品賞、そして監督賞を受賞している。早くもオスカー最有力候補とも噂される「ジョーカー」、果たして、コミック原作としては初めての作品賞、監督賞を受賞することはできるだろうか。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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