最凶の悪役はどう生まれたか。映画「ジョーカー」が描く孤独の内面

映画「ジョーカー」 10月4日公開

この作品「ジョーカー」に関して、最新で最大の話題を取り上げるとすれば、やはりベネチア国際映画祭で、最高賞に当たる金獅子賞を受賞したことだろう。

話題となったのは、受賞したことだけではない。この作品がアメリカのコミック「バットマン」を原作とした映画であることだ。

アメリカにはコミック原作の供給元として、DCコミックスとマーベルコミックの2大出版社がある。前者なら「バットマン」や「スーパーマン」、後者なら「アベンジャーズ」や「スパイダーマン」となどがその代表的作品だ。

この2社のコミックは、「X-メン」(2000年)、「スパイダーマン」(2002年)、「バットマン ビギンズ」(2005年)、「スーパーマン リターンズ」(2006年)などをはじめとして、2000年代に入って続々と映画化されてきた。

しかし、いわゆるスーパーヒーローを主人公とするアクションエンタテインメントということもあり、世界の映画祭のコンペティション部門に出品されることも、アカデミー賞などで受賞の対象となることもほとんどなかった。

そんな中、「バットマン」を原作としたクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」(2008年)が、第81回アカデミー賞で7部門にノミネートされ、うち助演男優賞と音響編集賞を受賞したことは、当時大きな反響を呼んだ。しかし、それとて、メインの作品賞や監督賞ではノミネートに至っておらず、あらためてコミック原作の前に立ちはだかる壁の大きさを認識させるものだった。

昨年公開されたマーベル原作のライアン・クーグラー監督「ブラックパンサー」は、アカデミー賞にと推す声も多く、映画会社もキャンペーンを張った結果、見事に作品賞を含む7部門にノミネートされ、うち3部門(残念ながら作品賞ではない)で受賞を果たしたことは、耳に新しい。


ベネチア国際映画祭に出席した主演のホアキン・フェニックスと監督のトッド・フィリップス

そんなコミック原作の作品が冷遇されてきたなかでの、「ジョーカー」のベネチア国際映画祭での最高賞受賞だ。

ちなみに今回のコンペティション部門には、是枝裕和監督の「真実」をはじめ、ロマン・ポランスキーやオリビエ・アサイヤスなどの世界に名だたる監督の作品や、ブラッド・ピットの新作「アド・アストラ」などの話題作も出品されており、それらを押しのけての受賞は、映画関係者にもかなりの衝撃を与えた。
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文=稲垣伸寿

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