形あるもので「香り」を贈る 大人のための花束アイデア

花びらがたおやかに広がる姿と、優雅な香りが格別なカサブランカ

花屋を見ていると、多くのお客さまに共通する行動があります。いろんな花に鼻を近づけて、その香りを嗅いでいく……。それくらい、人は花に「香り」を期待しているのだな、と感じます。

香り高い花といえば、ユリのカサブランカが代表的で、一年中楽しむことができます。まるで天然のディフューザーのような豊かな香りで、青山フラワーマーケットで扱う花の中でも、一番リピーターの方が多い品種。2週間に一度、必ず買いに来るお客さまが各店舗に複数名いらっしゃるほどです。

一方で、その季節にしか香りを楽しめない花も多く存在します。水仙、ヒヤシンス、スイートピー、フリージア、くちなし、香りジンジャー、沈丁花など。


香りが甘く濃厚でエキゾチックなため、「危険な快楽」という花言葉をもつチューベローズ

今は、チューベローズの香りが良い時期です。チューベローズと名前で聞くと、ぱっと思い浮かばないかもしれませんが、ハワイのレイに使う白い花のこと。私はこの花に出会うと、バリのアマン(ホテル)に行った時、エントランスの両サイドにずらりと飾られていた様子を思い出します。

人は何かの香りをかぐと、その風景や、過去の時間と結びつける傾向があります。例えば、肌寒くなってくる頃に金木犀の香りをかぐと、ふと子供の頃の記憶がよみがえり、その香りのありかを探してしまう人も多いのではないでしょうか。

花屋としては、その「香りと記憶」の関係を意図的にとらえ、ぜひ人生にもっと花を結びつけて欲しいと思います。

「香り」を贈るというプレゼント

私は人に花をあげるときに、花という「形」を渡しつつ、実は「香り」を贈ることがよくあります。例えば、バラのシェドゥーブル。白い花が似合う季節には、シェドゥーブルだけを束ねて渡します。その香りが記憶に残り、後日同じ香りをかいだ時に思い出してもらえるように、という気持ちを込めています。


甘さとほろ苦さのある、まろやかな香りがする白バラ・シェドゥーブル

知人の中には、好きな女性に定期的に、香り高い深紅のバラ・パパメイアンをプレゼントし続けて、結婚まで結びついた方もいました。その二人にとってはパパメイアンは”二人の香り”。人生の中に花の香りと特別な記憶が結びつくというのは素晴らしいことだと思います。
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文=井上英明

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