形あるもので「香り」を贈る 大人のための花束アイデア

花びらがたおやかに広がる姿と、優雅な香りが格別なカサブランカ


一昨年のバレンタインのこと。青山フラワーマーケットのパリ店では、店内を日本のスイートピー一色にしてお客さまを出迎えました。スイートピーは、甘く優しい香りが特徴の春の花です。

海外では「バレンタイン=大切なパートナーに花を贈る日」として、花屋がもっとも忙しい日ですが、そこで求められるのは「赤いバラ」であることがほとんど。日本のスイートピーは世界に誇れるクオリティですが、それでも店内にバラを置かなくて大丈夫だったのか……現地スタッフに尋ねると、「甘い香りで満たされた店内で、そんな声は聞かれませんでした」と言っていました。

「愛する人に、この香りをプレゼントしてみませんか?」と提案すると、皆さん納得されて、香りが詰まったブーケを片手に、笑顔で店を後にしていたそうです。バレンタイン=赤バラという概念があるフランスで、スイートピーの香りにそれを覆すほどのインパクトがあったという証です。


世界に誇るクオリティーの日本のスイートピー

私もバレンタインには妻に花束を贈るのですが、スイートピーを渡したときのことは、妻も、私自身も、その光景が香りとともに心にしっかりと焼き付いています。

数日限りの植物のエネルギーに触れる

しかし一般的に、香りのする花は日持ちしません。それは限られた生体エネルギーが香りとして放たれるためです。逆を言えば、長持ちするものは、バラでも香りはしません。その代わり、香りがする花は記憶にはより長く残ります。

ヨーロッパの一部の国では、一週間の日持ち保証を始めるようになり、花の消費は増えたけれども、代償として香りがする切花が店頭から消えつつあります。それでは季節を感じることもできませんし、植物の魅力を感じる機会が減ってしまいます。



うちの店では、業界で「日持ちがしないから売れないよ」といわれていたような品目も、香りを共感したいという思いで販売してきました。当初は異端のようにも思われましたが、今ではたった3日間しか楽しめないような花も、その旬を楽しみにするお客さまやスタッフがいます。

そういう花は流通量が多くないため、ものによっては青山フラワーマーケットの100店舗で奪い合うほど。それは、年に一度のその瞬間を待ち望み、香りを手にして喜ぶお客さまの顔が目に浮かぶからです。

例えば梅雨の時期に咲くクチナシ。雨ばかりで憂うつになりがちなこの時期も、クチナシを思えば楽しくなる──花の香りにはそれほどの魅力があり、一年の季節の変化は、こうして「香り」でも楽しむことができます。

最近では、インテリアショップや雑貨屋さんの入り口にアロマ・フレグランス系のものが多く陳列されています。シャンプーなどもオーガニックの香りが増えてきました。「身につける香り」の元祖である香水も、生花から抽出されたエキスを使用しているものが多く、花の香りが原点。花そのものの香りは一番の贅沢である、と感じます。

そうして加工されたものもいいですが、生花が放つパワーに勝るものはありません。花の香りに季節を感じ、記憶に残る花の香りをプレゼントに贈る。そんな花との付き合い方を楽しむ人が増えたら良いなと思います。

連載:Living With Flowers Every Day
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文=井上英明

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